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<自民要望書問題>「現政権とメディアは完全な上下関係」田島泰彦教授インタビュー

2014年11月29日 14:31  弁護士ドットコム

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自民党が衆議院解散の前日、在京テレビ各局に対して、選挙報道の「公平中立」を求める文書を渡していたことが明らかになり、波紋を呼んでいる。ネットメディアや新聞各社が報じたほか、自民党の要望書の写真がネットで拡散している。


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その内容を見ると、「出演者の発言回数及び時間」「ゲスト出演者の選定」から「街角インタビュー、資料映像」に至るまで、「公平中立、公正を期す」ことを繰り返し求めている。



選挙前に、政権与党がこのような内容を報道機関に要望することは「報道の自由」に対する侵害にならないのだろうか。メディア法にくわしい田島泰彦上智大学教授に話を聞いた。(取材・構成/関田真也)



●実質的に「批判を許さない」と言っているに等しい


――今回、自民党がテレビ各局に渡した文書を見て、どう思いましたか?



こうした報道機関に対する政党からの申し入れは、公式なものから非公式なものまで従来からあったことで、珍しいことではないんです。



しかし、今回は特徴的な点が二つありますね。



まず、一つ目は、出演者の発言回数・時間や、ゲスト出演者の選定、取り上げるテーマや街角インタビューの内容など、報道の内容についてかなり具体的に指示している点です。いままで政権与党がここまでやったというのは例がありません。



二つ目は、文書を一方的に送るという形ではなく、自民党記者クラブに所属する各テレビ局の責任者を個別に呼び出して、文書を直接手渡したという点です。今回は口頭でも、いろいろ注文をつけたようですね。これは、要望という範囲を超えていて、「恫喝」という印象を与えかねないものです。



――「報道の自由」「表現の自由」を侵害する、という反発の声もあります。



今回はあくまで一つの政党である自民党がテレビ局に文書を渡しただけで、国が直接規制したわけではないから、憲法上の問題はないという意見もあるでしょう。しかし、法律の理屈としてはそうだとしても、形式的すぎて説得力があるとはいえません。



自民党は現在の政権与党であり、現政権を生み出し、支える組織です。そう考えると、法的にはともかく、社会的な感覚としては国家権力と同視する考え方が必要だと思います。



野党の弱小政党が、政権与党に有利な報道に偏らないでほしいという要望を出すことは、十分納得できる話です。しかし、自民党のような巨大与党を、同じように考えることは妥当ではありません。



また、政権与党は、本来メディアに批判的に検証されてしかるべき立場です。それにもかかわらず、このタイミングでことさらに「公平」「中立」であることを強調することは、実質的には政権与党の政策に対して、批判的な評価を許さないと言っていることに等しいと思います。



●いまの「メディアの問題」を象徴している


――放送法は、「政治的に公平」であることを放送事業者に課しています(放送法4条1項2号)。自民党の文書はこれに沿った内容だから問題ないという意見もありますが、どう思いますか?



いま行われている政策に対して異論を出すことで、言論のバランスは保たれます。政権与党に対して、さまざまな角度から批判的に政策を吟味するのは、報道機関の本来の役割そのものであって、「公平」という目的を実現するためにも一番大切なことです。



それに、自民党が考えていると思われる報道の「公平」の概念は、少し歪んでいると思います。「公平」かどうかは、選挙期間中という幅のある時間の中で総合的に考えるべきです。公示から投票日までの間に、バランスの取れた報道をすることを「公平」と解することが、放送法の正しい理解でしょう。



いろいろな角度、いろいろな切り口で、与党の政策を批判的にチェックする番組もあってしかるべきです。別の日の番組の中で、今度は違う視点から報道すれば、全体として問題はないわけですから。



一つの番組の中で、出演者の発言回数・時間や取り上げるテーマなどを厳密に公平にしなければならないとするのは、あまりに硬直的です。これでは意義のある番組作りなどできません。



各政党の主張の回数をカウントし、発言の時間をストップウォッチを持って計ることを、放送法が求めているわけではないのです。



――今回の件は、最初にネットメディアである「NO BORDER」がスクープし、それを新聞社や通信社が後追いして、テレビ局を取材したという流れのようです。



もし最初のスクープがなければ、こうした文書の存在は世間にあまり知られず、大きな問題にもならなかったのかもしれません。テレビ局がこんな文書を政権与党から渡されても、反発することもなく、報道も全くしないというのは、いまのメディアの大きな問題を象徴していると思います。



今回の「恫喝」とも言える要請に対して、メディアが怒っているとか、無視してしまえばいいと考えているかというと、そうではなく、むしろ逆なんですね。選挙期間中は「公平」ということを意識しすぎて、自主規制をしているのが現実です。本当は国民に伝えなくてはいけない情報ですら、出さなくなってしまっているんです。



――今後、大手メディアに対して、どのような姿勢を求めたいですか?



こんな文書を政権与党が報道各社に渡すなんて、欧米の政権とメディアの関係だったらあり得ないですよ。政権与党に呼びつけられた時点で、拒絶するのが普通でしょう。



そもそも、放送法の目的とする「公平」「中立」という概念は、権力者が指示して押しつけるものではなく、報道機関自らが主体的にやるという精神であるべきなのです。



時の政権与党がメディアの責任者を呼び出して「恫喝」めいた文章を渡し、テレビ局も、その事実を報道することもなく、黙って従っている。現政権とメディアの関係は、完全な「上下関係」ともいえる段階に来ていますね。非常に深刻な状況だと思います。



テレビ局や新聞社は、今回のような状況は政府とメディアの関係としていかがなものかと積極的に問題提起をして、大々的にキャンペーンをやるくらいの気概を持ってほしいですね。


(弁護士ドットコムニュース)