トップへ

密着マクラーレン・ホンダ:初期トラブルは想定内、ホンダミュージックの柔らかな輪郭

2014年11月27日 11:40  AUTOSPORT web

AUTOSPORT web

F1アブダビ合同テスト2日目、夕方になって、ようやくコースインしたマクラーレン・ホンダMP4-29H 1X1
11月26日、F1アブダビ合同テスト2日目の朝。午前9時のセッション開始を前にマクラーレン・ホンダのガレージは突然慌ただしい雰囲気になった。マシンはウマに上げられたままで、そのうち立ち入り禁止を示す黄色いテープで囲われてしまった。

 初日のセッション終了後、マクラーレンの夜担当チームに加えてホンダ側のスタッフも徹夜で準備作業を進め、午前6時にエンジンに火を入れて準備が整ったことを確認した。それなのに午前8時45分ごろ、セッション開始に向けてに火を入れようとスターターを差し込んでみると、電源が入らずにエンジンに火を入れることができない。ここから長いチェック作業が始まった。

「くわしくは言えませんが、システムが起動していくプロセスが不安定で、エンジン始動までいけないという感じでした。電源が入らないから、回せないという状態です。パワーユニットがダメとかいう以前の問題で、それぞれのコントローラーが起動する途中で引っかかってしまうという電気系統の問題です」(新井康久総責任者)

 パワーユニットと車体側のありとあらゆる部分を確認し、電子回路がどこで止まっているのかを確認していかなければならなかった。ガレージ内ではバッテリーやギヤボックス、無線装置などを次々と取り外しては電気テスターを差し込んでみたりと様々な確認作業が行われる。ドライバーのストフェル・バンドーンはTシャツ姿のままで、すぐに問題を解決するのが難しい状況であることを窺わせる。

 マクラーレン側の関係者は「これは電気系のトラブルであり、ホンダ側ではなく我々側の問題だ」と言う。

 ランチブレイクを挟んで午後のセッションが始まっても、なおMP4-29H/1X1はウマの上に載せられたままで、モノコックの上では高電圧注意を促す黄色いライトが点滅している。しかし、午後3時を回る頃にバンドーンがレーシングスーツに着替えてガレージに入り、黄色いテープも取り払われてスターターでクランキングする音が聞こえ始めた。

 午後4時14分、ついにエンジンに火が入り、数回のブリッピングを含めて約1分間ほどの暖機運転が行われた。聞き慣れたメルセデスのエンジン音とは異なり、特にブリッピングで回転が上がっていく時の音は、かつてのホンダミュージックを思わせるような柔らかい輪郭をしているように感じられる。

 午後4時28分、当初の予定から大幅に遅れてようやくガレージ前の衝立が開き、MP4-29H/1X1が姿を現わした。この日初めてのコースインを果たし、ゆっくりとしたペースで1周のインストレーションチェックを終えてピットに戻ってくると、スタッフが取り囲んで異常がないかチェックを行う。

 遅れを取り戻すべく、10分後には本格的な走行を開始するため、この日2回目のコースイン。スタッフたちがピットウォールへと出て、マシンがメインストレートへと戻ってくる瞬間を待ち受ける。が、しかし、マシンの電源がダウンしたことを伝える無線が飛び、スタッフたちは落胆と呆れの入り混じったような複雑な表情で一斉にピットへと戻っていく。

 ガレージに戻ってきたマシンをチェックしてみたものの、すぐに原因を究明するのは難しい様子で、残り30分という段階で2日間のテスト日程を終了することが告げられた。

 2日間で、わずか5周、うち2周は途中でストップし、結局一度たりともメインストレートを駆け抜けることは果たせなかった。

 初の本格的な実走テストとはいえ、シルバーストンでのフィルミング撮影でスムーズに走っているだけに、ここまでの苦境はホンダ側も予想していなかったようだ。

「今日は朝から走れると思っていましたし、かなりの周回ができる予定でプログラムを組んでいました。何が原因なのか、ずっと特定できなかったんです。それが特定できてしまえば『あぁ、なんだこんなことか!』という感じで、直すのは速いんですけど、そこを発見するまでが大変な1日でした。システムチェックのために仕立てた暫定テスト車両なので、結構不安定なところがあるんです」

 予定していた空力のデータ収集もほとんどできず、2015年型タイヤのテストもできていない。しかし空力テストは一部をレース週末のフリー走行で前倒して実施しており、タイヤに関しても「リヤタイヤのグリップが向上する方向なので、さほど心配していないし、新車ができてからでも十分に合わせ込みは可能です」(今井弘エンジニア)とチームは見ている。

 マクラーレン側としては2日間を丸々棒に振ることも想定の範囲内で、それでもなお来年2月のテスト本番でつまずかないために、このテスト車両プロジェクトを立ち上げたのだ。今季の開幕前にパワーユニットの熟成不足で苦しんだ、あるチームの関係者は「1周走るだけでも、ものすごい量のデータが得られる。初テストは寝る時間がなくて当然だ」とまで言う。ここでトラブルを出しておくことそのものが、来季の本格始動に向けた礎になるというわけだ。

「5周しか走っていないのでみなさんにいろいろ言われるでしょうけど、どこが問題になるかということも、だいたい特定できました。今回学んだものをきちんと整理して2月のヘレスで走らせるクルマに反映させたいと思います。この(走行5周のみという)結果に満足はしていませんよ。でも得たものも大きかったし、それが今回のテストの総括ですね」

 たった5周という小さな一歩は、2015年に向けた大きな第一歩へとつながる。その成果は、まだ外から見えなくとも、一体となったマクラーレン・ホンダはすでに着々と2015年へと歩き出しているのだ。

(米家峰起)