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家庭内で起きている児童への「性虐待」 大人たちは「子どものサイン」に気づけるか?

2014年11月26日 17:11  弁護士ドットコム

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「おばちゃんもセックスするの?」——もし小学生の女の子から、こんなふうに聞かれたらあなたはどう反応するだろうか。はぐらかして相手にしない人もいるだろう。でもそれは、その子自身が性被害を受けていることを示すサインかもしれない。


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子どもの性被害について考える内閣府主催のシンポジウムが11月25日、東京都内で開かれた。日本子ども家庭総合研究所で子どもの虐待問題を研究している山本恒雄さんは「子どもの性被害は水面下で進行しやすい。子どもがぽろっと発したサインに大人が気づき、早期に調査・保護することが求められます」と語った。



●親密さと性暴力が入り混じって進行


「子どもの性被害は、加害者はもちろん、被害があったことを知っている関係者もひた隠しにするため、子ども自身が告白しない限り、ほとんど発覚しません。昨年、全国の児童相談所に寄せられた性虐待被害の件数は1449件にのぼりましたが、これは氷山の一角にすぎません」



子どもの「告白」が被害発覚のカギということだが、それも現実にはなかなか難しい。「子ども自身が、何をされたのかよく分かっておらず、自分の経験をどう話していいのか分からない」ためだと、山本さんは説明する。



「家庭内の性被害は、実父や養父、兄弟など、子どもの養育に密に関わっている人物であることが多い。特に、母親が子どもに目をかけない『ネグレクト』のとき、代わりに面倒を見てくれる父親や母親のボーイフレンドは、子どもにとって、とても重要な人物になり、親密性が生じます。



ただし、性の問題は『時間経過』という要素を持っています。始めは、小さい子どもにただ優しく接していた男性が、子どもが性的に成熟するとともに性的関心を持ち始め、少しずつ加害行為を混ぜていく。



子どもにとっては、大好きな人がいつからか自分にとって違和感のある行為をし始めるが、それが良いことか悪いことか区別できません。日本における家庭内性被害はこうして進行します」



傾向として、欧米ではレイプや強制わいせつという形で性被害が発覚するが、日本では、なでさすりから徐々に性被害に発展するなど、親密さと性暴力が入り交じりながら水面下で進行しがちなのだと、山本さんは語る。



●信頼できる大人に「性被害」をほのめかす子ども


「父親など近親者が性被害の加害者の場合、子どもは『お母さんに対して隠し事をしている。自分は悪い子だ』と思ってしまいます。もし自分が性被害のことを話したら、隠し事をしていたことにお母さんが怒って、今まで通りに自分を愛してくれなくなるかもしれない。家が大騒ぎになったら自分のせいだと考えて、被害のことを洗いざらい話せないのです」



性被害を受けても全てを話せない場合、子どもは、信頼できる大人に自分が受けた性被害の一部を「ほのめかす」発言をすることがあるという。しかし、多くの大人は子どもが出すサインになかなか気づけない。



「私が知っているケースでは、性被害を受けた小学生の女の子が自分のおばさんに対して、ニヤニヤしながら恥ずかしそうに、『おばちゃんもセックスするの?』『フェラチオって何か知ってる?』などと突然聞いたというケースがあります。しかし、それを聞いた人はまともに話を聞かずにはぐらかしてしまう。『この子は性被害にあっているのでは?』とは考えないのです」



性に対するためらいや、性的な話題をオープンにすることに否定的な日本の文化が、「子どもを沈黙させる壁になっている」と山本さんは語る。



「性被害を受けた子どもの多くは、加害者から『みんな家ではこういうことをしているけど、人には言わないんだよ。言ったら恥ずかしいよ』と言われています。



自分がされていることに違和感を感じた子どもは、『こんなことを言ってわかってもらえるかな?』と思いつつ、信頼する人に恥じらい、ためらいながら話をします。



ところが相手から見ると、その様子が被害の深刻な訴えに見えず、子どもの出すサインを見逃してしまうのです」



信頼できる大人に勇気を出して話しても、まともに取り合ってもらえない。こうして子どもは相談することを諦めてしまい、被害の発覚がますます遅れるのだという。



●早い時期に「調査・保護」することが大切


「子どもが、性被害を正確に告白できるようになるのは思春期以後です。しかしそれまで待っていては、被害の長期化・重症化が避けられません。したがって、早い時期に、子どもがぽろっと怪しいことを言ったときに大人が通告し、調査・保護することが非常に大切です」



さらに、保護は、たんに加害者から引き離せば終わりではないと、山本さんは語る。



「性被害を受けた子どもは、その記憶を思い出さないよう、心に何重にもフタをしています。



保護した直後から子どもは『自分は性被害を受けた』という事実に直面するため、精神的に不安定になったり、問題行動が深刻化する場合があります。保護した後の心のケアについて、日本にはまだまだ課題が残されています。



性被害の記憶は『なかったこと』にすることはできず、トラウマにどう向き合うか、どう立ち直るかが問われます。このとき必要なことは、自分が受けた被害について、話を聞いてくれる誰かがいるということです。



フランスでは、性被害にあった子どもに10年にわたって専属のソーシャルワーカーがつきます。日本ではまだこのような制度は確立されていませんが、長期的な心のケアは不可欠と言えるでしょう」


(弁護士ドットコムニュース)