2014年11月26日 12:11 弁護士ドットコム
日テレにアナウンサーとして入社予定だったのに、内定を取り消された――。女子大生が日本テレビを相手に、内定取り消しの無効確認を求める裁判を起こしたことが、議論を呼んでいる。
【関連記事:「どうして解散するんですか?」小学4年生になりすましてサイト制作、法的問題は?】
訴状によると、原告の女子大生は、2013年9月に日本テレビから「アナウンサー採用内定」を通知された。しかし2014年3月、銀座のクラブでアルバイトをしたことがあると申告したところ、人事担当者から「(銀座のクラブでのアルバイト経験は)アナウンサーに求められる清廉性にふさわしくない」と告げられた。その後、5月28日付けで内定取り消し通知が届いたという。
大学生の中で、生活費や学費の工面のために、アルバイトをする学生は少なくないはずだ。女子大生の中には、さまざまな事情で、キャバクラやクラブに勤務する人もいるだろう。こうした経歴は、就職活動のときには、企業側にすべて明らかにしないといけないのだろうか。労働問題にくわしい白川秀之弁護士に聞いた。
「一般に採用において、嘘を答えることは許されません。しかし、過去の経歴等のすべてを漏らさず申告する義務はありません」
白川弁護士はこう述べる。ということは、質問されない限り、何も申告しなくても良いのだろうか?
「例外的に、業務と密接に関連する事がらについては、『応募者が申告をすべき義務』があり、申告しなかったことを理由として、内定取り消しができると考えることもできます。
たとえば、運送会社の運転手採用の際、自動車で人身事故を起こした前科があるといった事実は、業務との関連で申告が必須といえるでしょう。
ただし、こうしたことは、あくまで例外です。
採用する側は、採用にあたって、企業として重要と考える事項については、きちんと質問をし、確認をしておくべきです」
裁判所は、内定取り消しが争われたケースについて、どういった判断をしているのだろうか。
「裁判所は、こうした『内定取り消し』に、おおむね厳しい傾向にあるようです。
判例によれば、内定取り消し事由として認められるのは、『客観的に合理的と認められ、社会通念上相当として是認することができる』ことに限られるとされています」
深夜のクラブで接客アルバイトの経歴を申告していなかったことは、こうした理由に該当するのだろうか。
「一般論としての回答になりますが、アナウンサーの仕事はニュースを伝えたり、実況中継をしたり、インタビューをしたりすることです。
クラブでの接客のアルバイトの経歴があることで、アナウンサーの能力、適正に影響があるとは思えません。
そもそも、申告の義務もないと思います」
今回、訴訟を起こした本人は「アナウンサーに求められる清廉性にふさわしくない」と告げられたようだが・・・。
そもそも、『清廉性』という言葉自体、かなり抽象的な言葉であり、人によってそのとらえ方は千差万別です。また、ニュース報道に携わる人から、バラエティ番組に出る人など、さまざまなアナウンサーが存在する状況のもとでは、アナウンサーはこうでなければならないという固定概念もないと思います。
日テレ側はそのような抽象的な理由ではなく、もっと、具体的にアナウンサーとしての能力適性に影響するという事情を主張する必要があると思います」
白川弁護士は「内定取り消しは、内定をもらい、卒業後の生活を考えていた女子大生の人生に重大な影響を与えかねません。それを正当化するだけの『客観的に合理的と認められ、社会通念上相当として是認することができる』事情はないと思います」と指摘していた。
(弁護士ドットコムニュース)
【取材協力弁護士】
白川 秀之(しらかわ・ひでゆき)弁護士
2004年弁護士登録。労働事件が専門だが、一般民事事件も幅広く扱っている。日本労働弁護団常任幹事、東海労働弁護団事務局次長、愛知県弁護士会刑事弁護委員会委員。
事務所名:弁護士法人名古屋北法律事務所
事務所URL:http://www.kita-houritsu.com/