2014年のF1世界選手権も、昨日をもって全ての日程を終了しました。メルセデスAMGの圧倒的な強さを見せつけられた1年間だった、と申し上げてよろしいでしょう。その強さは、これまで幾多の“最強チーム”が出てきましたが、それらを凌ぐほどのモノ。史上最高のシーズン圧勝劇と言っても、過言ではないでしょう。
そんな最強チームを、時折苦しめたのが、ウイリアムズでした。昨年ランキング8位に沈んだ古豪が、今年は結果的にランキング3位。見事な復活劇でした。
そのウイリアムズは、最終戦でもメルセデスAMGを苦しめたように見えました。ポールポジションを最後の最後まで争い、決勝でもレッドブルやマクラーレンがついてこれない中、大きく離されることもなく、決勝最終的には3秒差まで詰めてみせました。ここまでメルセデスAMGを追いつめることができたのは、フェリペ・マッサの頑張りもあってのものですが、レース後にウイリアムズのメカニック白幡勝広氏は「バルテリ(ボッタス)がスタートミスしていなければ、勝てたはずだったのに……」と、ダブル表彰台を獲得した晴れやかさと共に、悔しさを滲ませていました。
しかし、ウイリアムズに勝利の可能性はあったのでしょうか? ちょっと検証してみましょう。
スーパーソフトタイヤでスタートした、メルセデスAMGとウイリアムズ。走り出しこそメルセデスの方が1周あたり0.5秒程度ずつ早く、マッサに対してリードを徐々に築いていきます。スタートに失敗したボッタスは、マクラーレンのジェンソン・バトンやフェラーリの2台にひっかかってしまい、1周につき2秒程度ずつ、先頭から遅れていきます。
ただ、2番手を走るニコ・ロズベルグ(メルセデスAMG)のペースは徐々に落ち、7周目にはマッサと同等に。翌8周目はハミルトン、ロズベルグともにマッサよりも遅いラップタイムになってしまいます。この時のマッサのペースは、走行開始時とほとんど変わりません。
結局、ハミルトンは10周目にピットイン。ロズベルグも11周目にピットに入ります。これに対してマッサは13周目にピットイン。マッサはこの時でもペースはほとんど落ちておらず、1分47秒台後半~1分48秒台前半をキープしています。
その後3台はソフトタイヤに履き替えるわけですが、メルセデスAMGの2台は22~23周目まで1分47秒台前半のペースで周回を重ねます。一方、マッサはソフトタイヤに変えるや、1周あたり0.1秒程度ずつペースが下落。24周目にはトップのハミルトンから13秒もの差をつけられ、ここでマッサの勝利の目は潰え、メルセデスAMG2台による先頭争いに絞られたかに見えました。しかし、ここでロズベルグのマシンにトラブルが発生。徐々にハミルトンから遅れて行き、ハミルトンの独走となり、チャンピオン争いが決した……そういう展開になりました。
チャンピオン争いはほぼこの時点で決したものの、マッサは決して優勝を諦めてはいませんでした。ハミルトンは31周目に2回目のピットストップを行いますが、マッサはずーと引っぱり、なんとピットに入ったのは43周目。この時のペースの推移を見ると、実に興味深い傾向が見えます。マッサのペースは前記した通り序盤は徐々に遅くなっていたのですが、26周目を境に一転、ペースが上がりはじめるのです。最も遅かった26周目のマッサのタイムは1分49秒266。ここからペースを回復し、39周目には1分46秒901を記録するまでになるのです。その上昇度はなんと2.3秒以上。タイヤ交換時には、ハミルトンとの差は10秒に縮まっていました。
マッサは2回目のタイヤ交換でスーパーソフトタイヤを選択します。スーパーソフトはソフトに対して1周あたり1秒程度速いのですが、寿命が短いのが玉に傷。しかし、マッサは飛ばしに飛ばし、ハミルトンのペースが上がらなかったこともあって、最終的には2.5秒差まで詰め寄ってみせました。
このようなデータを見る限り、マッサが勝利する可能性は、かなり低かったということができます。まず第一に、ハミルトンは最後、あまりペースを上げませんでしたが、この時はロズベルグのトラブルを認識して自らに同様のトラブルが発生しないよう、ペースをコントロールしていた可能性が見えることです。つまりマッサとの差を巧みにコントロールしながら、マシンを最後まで持たせたように思えるのです。
マッサが勝つためには、もっと大胆な作戦を採る必要があったと思います。例えば1ストップ。最初のスーパーソフトで、マッサはペースが落ちる前にピットインしました。もしそのままあと5周程度長く、ペースを落とすことなく走ることができていれば、ハミルトンからは20周目に15秒差つけられたとしても、タイヤ交換1回分のロスタイム約23秒が節約できたはずで、最後のスーパーソフトを使って稼いだ約7秒の差を差し引いても、マッサが前でゴールしていた可能性があります。ただ、これはもちろんタラレバの話。スタート時のスーパーソフトタイヤがそこまでもつという保証はありません。現にピレリも、そしてウイリアムズのスタッフも、「1ストップは無理だよ」と否定していました。
一方ボッタスがスタートで失敗していなかったら……という点ですが、ボッタスの第2スティントのペースは、単独走行だったにも関わらずマッサよりも悪いので、マッサの前に立つのは、さらに難しかったと思います。
結果としては、ウイリアムズがメルセデスの勝利できた可能性は、非常に僅かなものでした。しかし、最後の最後までマッサが全力で追いかける、そんな手に汗握る展開に、F1の面白さを改めて認識できたのではないでしょうか? しかも最後のスティントでスーパーソフトを選択したのは、マッサ自身だったと言います。
「何がなんでも、勝利を目指して追いかけてやる!」
そんな気概を感じたエピソードで、前出の白幡メカニックも、「マッサ、男だよなぁ」と感心しきりでした。トラブルでもリタイアせず、もうタイトルの可能性も潰えた状態で「最後まで走るよ」と発言したロズベルグと共に、人間味をとても感じることのできた、グランプリだったのではないでしょうか。
ところで、予選結果が剥奪されていなければ……と残念に思われる存在が、レッドブルのセバスチャン・ベッテルとダニエル・リカルドです。ベッテルは最初のピットストップ後にマクラーレンのケビン・マグヌッセンに抑えられてしまったために勝負権を早々に失ってしまいますが、リカルドは終始走りやすい位置を走行。最終スティントにスーパーソフトを持ってきた戦略も生き、4位でフィニッシュしています。当初のグリッドからスタートしていたなら、ウイリアムズと良いバトルを繰り広げてくれたはずです。
なお、最終戦で振るわなかったフェラーリは、なんと1993年以来の未勝利シーズンとなってしまいました。特に今回の最終戦はペースも上がらず、最初のスティントでは早々にデグラデーションが発生して5周目にフェルナンド・アロンソ、6周目にキミ・ライコネンがピットイン。最終スティントではアロンソにERSのトラブルと燃費制限があり、さらにペースを上げることができず……9位と10位がやっとでした。現状のフェラーリは、戦略云々以前のレベルになってしまっているようです。彼らが復活するのは、いつの日になるのでしょうか……。ベッテルが加入する来季の復活は、果たしてあるのでしょうか?
これにて2014年シーズンが終了。チームは早速2015年シーズンに向け、準備を進めます。来年はホンダも帰ってきて、マクラーレン・ホンダの名が再びF1シーンで見られることになります。さて、2015年シーズンはどんな勢力図になるのか? 今季不調に終わったチームの中には、秘策があるチームもあるようです。
(F1速報)