2014年11月24日 11:21 弁護士ドットコム
いわゆる「ねずみ講」を運営していた会社「クインアッシュ」の破産管財人が、元上級会員に利益の返還を求めていた裁判の判決で、最高裁は10月下旬、元会員側に約2100万円の支払いを命じる判断を示した。ねずみ講の上位会員にも支払い責任があると、最高裁が認めたのは初めてとされる。
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ねずみ講とは、他人を勧誘すれば利益が得られるとして参加者を募り、お金を吸い上げていくシステムだ。運営組織と一部の上位会員には利益が集まるが、最下層の人はお金を出すだけになる。最終的には必ず破たんし、大多数が損をするため、法律で禁止されている。
下級審の判決によると、ソフト開発会社だった「クインアッシュ」は2010年、ブログを自動作成するシステムへの出資を募り、月々の配当金や、新規会員の勧誘料などを約束して、数千人から約25億円を集めた。同社は2011年に経営破たんし、破産管財人が、利益を得たと考えられる上位会員に対して利益の返還を求めていた。
今回、最高裁が利益の返還を命じたのは、どういった理屈からだろうか。今後は、この判決をきっかけに「ねずみ講」被害者の救済が進むのだろうか。消費者被害にくわしい大村真司弁護士に聞いた。
「今回の最高裁判決は、『ねずみ講』の上位者の利得を、下位者に戻して、公平を図ることを念頭に置く内容です。被害者の救済のために、一定の評価ができるでしょう」
公平というのは、どういうことだろうか。
「『ねずみ講』は、個々の参加者が、『被害者としての側面』と『加害者としての側面』を持っているのが特徴です。
というのも、個々の参加者は、お金を支払わされるという意味では被害者ですが、下位の人を勧誘してお金を集めたという意味では加害者ですからね。
みんな同じように利益と被害が同程度あるわけではなく、上位の人ほど下位の人からもらえる利益が大きく、下位の人ほど少なくなりますから、上位の人は収支がプラスになり、下位になるほど被害が多額になっていくわけです。
このように上位者に集中する利益から、下位者の被害を救済しようというのは、公平の観点から評価できるというわけです」
今回の判決が出たことで、「ねずみ講」の被害者の救済は進むだろうか。
「今回の判決は、個々の『下位者』が『上位者』に直接お金を請求することを認める内容ではありません。
いったん、破産管財人が『上位者』のお金を受け取った後、そのお金を被害者への配当に回すことで、間接的な被害救済を実現することにとどまります。
一番の加害者は『主催者』ですので、理想は主催者から被害者に、お金が直接支払われることですが、判決の内容はそうしたものではありません」
同じような立場に置かれた人たちにとっては、それでも朗報なのだろうか?
「今回の判決は画期的ではありますが、被害者救済への効果は限定的です。
なぜなら、まず現実問題として、『ねずみ講』を行っていた会社が破産手続に入ることが、例外的だからです。
さらに、利益の返還が実現しても、破産債権者は被害者だけとは限りません。また、支払いの優先順位も、配当より、破産管財人の報酬や、滞納税金などのほうが優先されます。
そうしたこともあって、被害者に対する配当額はあまり大きくはならないのが通常でしょう」
大村弁護士はこのように指摘していた。
(弁護士ドットコムニュース)
【取材協力弁護士】
大村 真司(おおむら・しんじ)弁護士
広島弁護士会所属。日弁連消費者問題対策委員会委員、広島弁護士会消費者委員会委員、弁護士業務改革委員会副委員長、国際交流委員会副委員長、子どもの権利委員会委員
事務所名:大村法律事務所
事務所URL:http://hiroshima-lawyer.com