F1最終戦アブダビGP。ピットインした可夢偉を取り囲むケータハムのスタッフの動きが、どことなくぎこちない。理由は、いつもと違うメンバーだからである。今回3戦ぶりにレースを戦うことになったケータハムは、チームスタッフを大量に解雇した。それにはレースチームに所属していたスタッフも含まれていたため、アブダビのメンバーにはこれまでファクトリーで勤務していたエンジニアやメカニックも数人含まれている。
「朝、ガレージへ行ったら、初めてグランプリにやってきたメカニックにタイヤウォーマーの脱着方法を教えていた」と可夢偉は言う。逆風は、それだけではなく、チームにひとつしかない日本GPから投入している新型フロントウイングを、このアブダビでも可夢偉は使うことができない状態が続いている。以前、可夢偉はレースに復帰する条件として「チームメイトとのイコールコンディション」を挙げていた。チームもそれは理解していたが、新しくチームメイトとなったウィル・スティーブンスとの契約を優先しなければならない事情があった。
それでも、マシンに乗る前も、フリー走行を終えてヘルメットを脱いでからも可夢偉の表情は実に穏やかだった。ライバルだったマルシャが欠場し、かつてのチームメイト、マーカス・エリクソンがケータハムを離脱するなか、最終戦に参加できることを純粋に喜んでいるからだ。
可夢偉が抱えているハンデは他にもある。可夢偉側のガレージには、ドライバー用のモニターがないのだ。ロシアGPで故障したというモニターは6週間経っても直ってはいなかった。通常であればガレージにマシンが戻されると、ドライバーの目の前に置かれるモニター。しかし、それがない可夢偉は、無線でレースエンジニアから詳しいタイムを確認するしかない。
そのレースエンジニアも今回は変わっている。新たに可夢偉のレースエンジニアを務めることになったのは、ロシアGPまでエリクソンのパフォーマンスエンジニアだったニコラ・パラキである。パフォーマンスエンジニアはテレメトリーで送られてくる走行データをチェックして、その状況をレースエンジニアに伝達する役割。これに対して、レースエンジニアはドライバーや自分以外のエンジニアから情報を収集し、どうすべきかという判断を下す役割を果たすため、経験がものをいう。
パラキは金曜のフリー走行で可夢偉がアタックラップに入った直後に、無線で可夢偉に話しかけるという、本来レースエンジニアが行ってはならないミスを犯した。それに対しても可夢偉は「フランチェスコ(ネンチ/ザウバー時代のレースエンジニア)と同じ町の出身ということなんで、どうやって、このイタリア人を扱おうかなと考えているところです」と笑う。
アブダビGP、初日。可夢偉はフリー走行1回目で24周を走行し、フリー走行2回目もノートラブルで38周を走破した。トータル62周は7月に行われた第11戦ハンガリーGPの65周には及ばなかったものの、それに次ぐ自身では今シーズン2番目に多い周回数だった。
「もし二度とF1でレースができなくても、後悔しないレースをしたいと思って、ここへ来た」と語る可夢偉。金曜は、思う存分走った。
(尾張正博)