2014年11月22日 16:31 弁護士ドットコム
自分が投票した「1票」が、実は「0.5票」や「0.2票」分の価値しかなかったら――。選挙における「一票の格差」の問題をわかりやすく解説した書籍『決めごとのきまりゴト』が10月、旬報社から発売された。
【関連記事:ネットで注目のサイト「アグレッシブ離婚」 なぜ作ったのか、制作者に聞いてみた】
たとえば、ある選挙で投票できる有権者が、A選挙区に1000人、B選挙区に2000人いたとする。1つの選挙区につき、議員が1人ずつ選出されるとすれば、A選挙区は1000人で1人の代表を選ぶ一方で、B選挙区は2000人で1人を選ぶことになる。これは、逆にいうと、B選挙区の1票は、A選挙区の0.5票分の価値しかないことを意味する。
これが「一票の格差」問題で、この状態を「2倍の格差」と呼んでいる。
2013年の参議院議員選挙では、この格差が最大で4.77倍だった。それに異議を唱える弁護士グループが「選挙は違憲・無効だ」として国を訴えた。その最高裁判決が11月26日に予定されている。判決を前に、『決めごとのきまりゴト』の著者であるジャーナリスト・浅利圭一郎さんに、「一票の格差」の問題について話を聞いた。
――そもそも、「一票の格差」があると、具体的には何が問題なのでしょうか。
国会で重要な法案を通したり、議論が紛糾したりしたときに、51対49のようなギリギリの多数決になることが多くあります。
でも、国会議員の背後にいる有権者の人数を数えて30対70といった状態だったら正当な多数決になっておらず、国民の意見を正しく反映しているとはいえません。
たとえば、学校でクラスの学級委員を選ぶときは「一人一票」です。もし家が学校から遠いから2票とか、近いから0.5票とかだったらどうでしょうか。こうしたシステムのもとで選ばれた選挙結果に納得したり、選出された学級委員を信頼できるでしょうか?
――参議院の場合は、ある程度、一票の格差があってもやむを得ないという意見もあります。
参議院であろうと衆議院であろうと、国民からみたときに、国会議員は「国民の代表」であることは憲法に明記されています。システムとして「選挙区」という体裁をとっていますが、それは各地方の利益を代弁する存在ではありません。
参議院だから、衆議院に比べて格差があっていいという理屈は間違いだと思います。参議院であろうと衆議院であろうと、国会議員の後ろにいる有権者の人数は、限りなく1対1に近づけなければならないと思います。
――タイトルの『決めごとのきまりゴト』とはどういう意味なのでしょうか。
ここで、「決めごと」というのは、代議制民主主義でのことです。選挙で選出された国会議員が、憲法や法律の定めにしたがって、われわれの生活にかかわるさまざまな事柄を決定する、という国の根本的な仕組み。
そして、「きまりゴト」というのは、その制度を支える「一人一票」のこと。
つまり、「一人一票」という「きまりゴト」が守られていないと、国会議員を選出する選挙や国会でのあらゆる多数決など、その先の「決めごと」もおかしなことになってしまう、というのがタイトルにこめた意味です。
――ずいぶんポップな装丁の本ですが、狙いはどこにあるのでしょうか。
これまでも、「一票の格差」の問題について扱っている本は新書などでありました。しかし、中身も専門的で、少し難しく思われがち。実際、よほど関心のある人でなければ手にとらず、敷居が高いなどと言われることも多くあります。
この本は、もっと一般の人に対して「一票の格差がなぜこんなに騒がれているのか」を伝えるものにしたかったのです。あくまでも自分ごとなんだというところまで読み手を引き寄せる必要がありました。
そこで、できる限り手に取りやすい、ポップなつくりにしようと考えました。形も目立つように、B5変形という目立ちやすい形にして、インタビューや写真、図を多用しながら、とにかく若い人たちにも手に取ってもらえるような本にしたかった。
――11月26日に、2013年の参議院選挙の無効を求めた裁判の最高裁判決が出ます。来たる判決に期待することはなんでしょうか。
選挙無効請求事件という名称ではありますが、原告団は、選挙を無効にすることを目的として、裁判を起こしているのではありません。
「選挙無効訴訟」ではあるのですが、この訴訟の目的は、最高裁判所に「この国の選挙制度は衆参問わず、一人一票に近づけなければならない」と認めてもらうことです。
――最高裁に期待することは?
2010年参議院選挙に関する最高裁判決(2012年10月17日)では、「参議院だからといって、投票価値が平等でなくてよいわけではない」ということと、選挙区割りに関しても、「都道府県で区割りすることは憲法の要請ではない」といっています。
今回の判決には、「これ以上」が期待されます。「これ以上」というのは、「人口比例選挙」が憲法の要請であると判決文に書かれることです。
衆院選にも判決内容は影響を及ぼす面もありますし、どんな判決が出されるにせよ、最高裁自身の司法としての存在意義が問われる判決になることは間違いありません。
【取材協力】
浅利 圭一郎(あさり けいいちろう)
記者・編集者。1975年北海道生まれ。大学卒業後、神戸新聞社入社。退社後、雑誌編集・記者などを経て2007年からフリーランス。社会問題をはじめ、硬軟や媒体を問わず取材執筆編集を担当。『決めごとのきまりゴト 1人1票からはじめる民主主義』旬報社・2014年10月1日刊。1,200円+税
(弁護士ドットコムニュース)