2014年11月21日 12:01 弁護士ドットコム
秋田県の地方新聞「秋田魁新報社」が従業員に対し、適切な残業代を払っていなかったとして、労働基準監督署から是正勧告を受けていたことが、11月上旬に分かった。
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報道によると、秋田魁新報社は、実際の労働時間にかかわらず、部署ごとに一定額を支払う「定額残業制」を、労使合意にもとづいて採用していた。しかし、秋田労働基準監督署は「一定の残業時間を超えた場合は未払いに該当する」として同社に是正勧告をした。
勧告を受けて同社は、従業員268人のうち約8割に、今年1月~6月分の未払い残業代と深夜割増賃金、合わせて約7500万円を支払うと発表。「今後は労働時間の管理を徹底していく」と話している。
今回のように、労使合意に基づいて、定額残業制が採用されていても、「追加の残業代」が出るのはなぜだろうか。定額残業制は、そもそも法律で認められない制度なのだろうか。労働問題にくわしい笹山尚人弁護士に解説してもらった。
「労働基準法13条には、次のように書いてあります。『この法律で定める基準に達しない労働条件を定める労働契約は、その部分については無効とする』」
つまり、労基法の「基準」に達していない労働契約は、無効になるわけだ。そもそも定額残業制はダメなのだろうか?
「たとえば、『残業の時間の実態はどうであれ、残業代として支払うのは定額で○円です』という合意があったとします。
一方、労働基準法37条には、『残業時間に応じ割増賃金を支払わなければならない』という規定があります」
その2つが衝突したら、どちらが勝つのだろうか?
「もし、現実に働いた残業分の割増賃金が、定額○円分を超えていないなら、合意は有効です。
しかし、現実に働いた分が、定額○円分を超えている場合、『その部分』については、法の規定に達しない合意として、無効となります」
労使合意のうち、労働基準法37条のラインを超えた部分が、部分的に無効になるというわけだ。
「労使合意は、それが個別の契約であれ労働協約であれ、法令の定める水準に達していることが必要です。労使合意と法規では、法規の効力が優先されるわけです」
労働者と使用者の合意があっても、法律が優先されるのはなぜだろうか?
「労働者は使用者に対して不利な立場にあります。自由な契約内容を認めてしまうと、一方的に不利な契約内容を押し付けられかねません。
そこで、憲法27条2項は、労働条件を法律によって定めるとしています。
労働基準法は、憲法27条2項のいう『法律』の一つで、労働者の生活の最低水準を維持することを目的として定められたルールです。
したがって、労働基準法の水準を下回る労使合意は、効力を認められません」
合意が無効だと、どうなるのだろうか?
「そういった場合、労働条件は労働基準法の定めが適用されることになります。つまり、今回のような場合、労働基準法37条が適用され、割増し残業代が支払われることになります」
このように、笹山弁護士は解説していた。
(弁護士ドットコムニュース)
【取材協力弁護士】
笹山 尚人(ささやま・なおと)弁護士
2000年弁護士登録。著書に「人が壊れてゆく職場」(光文社新書)、「パワハラに負けない!」(岩波ジュニア新書)、共著に「学校で労働法、労働組合を学ぶ」(きょういくネット)、等がある。
事務所名:東京法律事務所
事務所URL:http://www.tokyolaw.gr.jp/