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就職先は「大工の学び舎」 高学歴の若者を引きつけ、育て続ける平成建設の先見性

2014年11月20日 17:40  キャリコネニュース

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東日本大震災の復興や2020年の東京五輪需要などで、いま建設業界は活況を呈している。ところが現場で作業する職人が足りず、若手はなかなか集まらない。そんな中、高学歴の大学や大学院を卒業した若者の人気を集める建設会社があるという。

平成元年に静岡県沼津市で創業した平成建設。2014年11月18日放送の「ガイアの夜明け」(テレビ東京)は、発想を変えたやり方で若手を集め、ベテランの技術を継承して行こうとする新たな取り組みを紹介していた。

下請管理ではなく、自社の社員で施工まで行う

総務省の労働力調査によると、建設業界で働く人は499万人と1997年のピーク時の7割程度で、いまも減少を続けている。高卒で建設業に入った人の47%が3年以内に辞めるという厚労省のデータもあり、現場を支えるのは55歳以上が3割、29歳以下は1割ほどだ。

しかし平成建設は社員数545人で、今年の内定者が48人。若手社員は「東大の建築学科で日本建築の歴史を学んでいた」「京大の建築学科で建築を学んでいた」など、高学歴の大学や大学院生が9割ほどを占める。

今年の春入社した百野太陽さん(26)は早稲田大学大学院を修了し、沼津市の社員寮で暮らしている。大学院の同級生は大手ゼネコンや有名設計事務所を目指したが、百野さんは平成建設しか受けなかった理由をこう話した。

「建築に携わる時、実際にモノを作るという実感まで味わいたくて。大工の現場の技術を学ぶために、学び舎として平成建設がいいなと思いました」

平成建設は、職人になりたい高学歴の学生の数少ない受け皿となっている。2014年の建設部門の就職人気企業調査(マイナビ調査)によると、清水建設や大成建設、鹿島建設など大手ゼネコンが並ぶ中、平成建設は8位にランクインしている。

普通の建設会社では、1つひとつの作業を外部業者に発注する。例えば大手ゼネコンのある建設現場では、下請けが30社ほど入り、全体で250人ほどの職人が作業する。それを10人のゼネコン社員で管理監督する。しかし平成建設では、ほとんどの作業を自社の社員で施工するようにしているという。

女性社員の目標は「設計のできる大工です」

入社11年目の渋谷宗則さんは、鉄筋や型枠の組み立て作業を行い、午後には別の現場で重機の操作までする。平成建設は建築士や型枠作業主任者、玉掛技能、クレーン運転技能など、社員1人ひとりが様々な資格を取得して、「多能工」と呼ばれる職人を育てているのだ。

これにより、現場で欠員が出た時に迅速に対応できるほか、色々な作業ができるため仕事に飽きにくいなどのメリットがある。同じ会社の社員で仕事をするので、先輩から後輩へ技術が伝わりやすい。ある一戸建て住宅の建設現場で働く川上華恵さん(25)も、こう語る。

「現場監督も同じ会社なので、(現場の人間は)しゃべりやすい。もし違う会社なら、下っ端と監督なので、こんなに話さないのではないのでは」

川上さんは東京芸大大学院で建築デザインを学んだが、「図面ばっかり描いているとモノから離れていく気がして」入社。目標は「設計のできる大工です」と展望を話した。

専門業者に頼らずほとんどの作業を自社だけで行えることもあり、業績は25期連続の増収を続けている。この会社を一代で作り上げたのが、社長の秋元久雄さん(66)だ。大工の家に生まれ、ゼネコンに入社しトップセールスマンとして活躍した。

当時から、「いずれ建設業界で職人が不足する」との危機感をもち、独立後から職人を採用し育ててきたという。伝統建築を学ばせるための京都での研修や、社内の技能テスト、技術を競う大会など、技術向上に会社をあげて取り組む。入社1・2年目の社員だけを集め、横のつながりを強くする狙いのイベントも行っている。

「こんな育てがいのある仕事はない」と社長

人材不足で右往左往する他の会社とは異なり、秋元社長には先見性があり、若者を育てようとする温かい心があったことが、いまの成功につながっているのだろう。

「大工は10年で一人前の1年生。その代わり、ずっとできるから面白い。こんな育てがいのある仕事は他にはない。みんながみんなを育てていく、それを継続していくんだよ」

痩せて小柄ながらきびきびと力強く話し、社長というより大工の棟梁といった風貌の秋元社長の言葉から、建築の仕事を愛し、業界全体の再興を目指す硬い意志が窺えた。今後は、1000人の職人を育成することが目標だという。

番組ではこのほか、大林組が今年から行っている「とび」「鉄筋工」「型枠工」などを育てる職業訓練校の話題も紹介。約900社ある取引先の建設会社の若手を育成する狙いだ。

三井住友建設の現場でも、女性が働きやすい環境づくりを女性チームの手で行っていた。後に続く若い女性たちを増やそうという動きだ。高学歴の若手や女性にも嫌われない環境や風土を作っていけば、人手不足の解消には大いに役立つに違いない。(ライター:okei)

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