2014年11月19日 14:21 弁護士ドットコム
「その場で●●容疑者を現行犯逮捕しました」「警察に出頭した▲▲容疑者を緊急逮捕しました」――。「現行犯逮捕」と「緊急逮捕」。テレビなどで犯罪の容疑者を逮捕する報道があったとき、こうした言葉の違いが気になった人はいないだろうか。
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ネット上では「緊急逮捕と現行犯逮捕って何が違うん?」「あんまり見分けが付いてないもんだなあ」という声もある。そもそも、「逮捕」にはどんな種類があって、どんな風に違うのだろうか。刑事手続きにくわしい小笠原基也弁護士に聞いた。
「逮捕には、『通常逮捕』『緊急逮捕』『現行犯逮捕』の3種類があります。このうち『通常逮捕』が、逮捕の原則的な形と言えるでしょう」
通常逮捕がキホンということだ。通常逮捕はどんな風に行われるのだろうか?
「通常逮捕の流れは、次のようになっています。
・捜査機関の請求を受けて、裁判官が逮捕状(令状)を発布する
↓
・捜査機関は、この逮捕状を被疑者に示して、被疑者の身柄を拘束する」
つまり、通常逮捕は、裁判官が事前に認めた場合だけ可能ということだ。逮捕が認められる条件は、何かあるのだろうか。
「まず、その被疑者に『罪を犯したことを疑うに足りる相当な理由』があることが前提です。
そのうえで、被疑者の身柄を拘束する必要性があるか、たとえば『証拠隠滅や逃亡のおそれ』などがあるのかが、逮捕状を出すべきかどうか裁判官が判断するポイントになります」
だが、警察官の目の前で傷害事件が起きた場合など、裁判官に逮捕状を請求していたら、被疑者が逃げてしまうこともあるのではないか。
「そうした場合のために、『緊急逮捕』と『現行犯逮捕』があります。
『緊急逮捕』は、急を要して、裁判官の逮捕状を求めることができないとき、例外的に捜査機関が逮捕理由を告げて、被疑者を逮捕することです。
対象となるのは、刑の上限が懲役・禁固3年以上となる重大犯罪の被疑者で、『罪を犯したことを疑うに足りる充分な理由』――通常逮捕の『相当な理由』より高度な嫌疑と言われています――があり、逮捕の必要性がある場合に限られます。
なお、『緊急逮捕』をした後は、ただちに裁判官の逮捕状を求める手続をしなければなりません。そして、結果的に逮捕状が出ない場合は、被疑者を釈放しなければいけません」
緊急逮捕が行われるのは、どんなケースだろうか。
「重大事件について、任意で事情聴取をしていた人が、犯行を自供した場合などに使われることが多いイメージです」
では、通常逮捕や緊急逮捕と、もう一つの「現行犯逮捕」は、何が違うのだろうか?
「『現行犯逮捕』は、『現に罪を行い、または現に罪を行い終わった者』を逮捕することです」
ざっくりいうと、犯罪の最中や、犯行が終わった直後の場合に限定されるということだろう。他にどんな特徴があるのだろうか。
「『通常逮捕』と『緊急逮捕』は、犯罪が行われてからの時間が経っていても、捜査の結果、嫌疑が強まって要件が整えば逮捕できます。ただし、逮捕をすることができるのは、捜査機関に限られています。
現行犯逮捕は逆に、その時点でしかできませんが、誰でも、逮捕状なしで、することができます」
誰でもということは、一般人でも逮捕できるということだ。だが、他人を「逮捕」するわけだから、いろいろと条件がありそうだ。現行犯逮捕をしていいのは、どんなときだろうか。
「『現行犯逮捕』の対象になるのは、犯罪の最中か、現に行い終わった『現行犯人』だけです。『現に罪を行い終わった』かどうかは、犯罪の内容や状況にもよりますが、犯行後の時間だけでなく、犯行場所からの距離も考慮されます。
たとえば、犯行後30~40分後でも現場から20メートルほどで発見・逮捕された場合に、適法な現行犯逮捕であるとした判例があります」
このように小笠原弁護士は説明する。
「また、以下の(1)~(4)のような状況のどれかに当たり、『罪を行ってから間がない』と明らかに認められる場合も、現行犯人とみなされます。
(1)『泥棒!』などと呼ばれて追いかけられている
(2)凶器や盗んだ物を所持している
(3)『服が血まみれ』など、身体や衣服に犯罪の顕著な証跡がある
(4)職務質問などで呼び止められて逃げようとした」
現行犯逮捕の条件はこのように法律で定められているということだが、もしかしたら、自分が「現行犯逮捕」をする機会があるかもしれない。そのとき、気をつけるべき点はなんだろうか。
「一般人が現行犯逮捕したときは、被疑者の身柄をただちに検察官か警察官に引き渡さなければなりません。
また、軽微な罪については、住居・氏名が明らかでないか、逃亡するおそれがある場合に限ってしか、現行犯逮捕はできません」
小笠原弁護士は「ドラマを見るときなどに、こういう違いを知っていれば、それなりに楽しめるでしょう。しかし、現実世界で、凶器を持った現行犯人と対峙することは、それなりの心得がないと危険です」と述べていた。
(弁護士ドットコムニュース)
【取材協力弁護士】
小笠原 基也(おがさわら・もとや)弁護士
岩手弁護士会・刑事弁護委員会 委員、日本弁護士連合会・刑事法制委員会 委員
事務所名:もりおか法律事務所