2014年11月17日 18:21 弁護士ドットコム
倒した自転車が高級外車を傷つけてしまったら――。東京都内で派遣社員として働いているMさんは休日の昼間、買い物でスーパーに行った帰りに思わぬ「事故」を目撃した。
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Mさんが利用するスーパーは、都心にあるため敷地が狭く、駐輪場も駐車場も設置されていない。ところがスーパーに自転車や自動車で乗りつける客は少なくなく、スーパーの前の道路に駐輪・駐車する人が後を絶たないそうだ。その日も、スーパーの入り口前の歩道に、通行の邪魔になるほど自転車が止めてあり、歩道に面した車道にも、車が1台駐車していた。
そこにベビーカーを押した女性が通りかかり、自転車に接触。自転車が倒れ、駐車していた外車「アウディ」の側面にぶつかって、大きな傷をつけた。女性は、車から降りてきた中年男性に「どうしてくれるんだ!弁償しろ!」と詰め寄られ、困惑しているようすだったという。
ベビーカーを押していた女性からすれば、駐輪が認められていない場所に止めてある自転車や、駐車禁止ゾーンに止まっていた自動車こそ問題なのであって、「自分は悪くない」と思うかもしれない。仮に、自転車と外車がともに「違法な駐輪・駐車状態」だったとしたら、ベビーカーの女性に責任はないのだろうか。石井龍一弁護士に聞いた。
「今回のケースでは、『ベビーカーを押していた歩行者』と『倒れた自転車をそこに駐輪していた人』、『傷を付けられた車の持ち主』の3人が関係していることになります。
車の修理代等の損害賠償責任を負うのは、車が傷ついたことについて『過失が認められる人』です。そして、どれぐらいの責任を負うかは、その過失の度合いに応じて変化します。
たとえば、もし、車の持ち主に過失があったとしたら、自分の過失の分は賠償請求ができなくなります。つまり、車の持ち主自身の過失分については、その持ち主自身が修理代を負担することになります」
過失がある人が、その割合に応じて、修理代金を負担することになるようだ。
今回のケースは、3人それぞれに過失があるのだろうか?
「まず、ベビーカーを押していた歩行者は、違法駐輪している自転車であっても、周囲をよく見て自転車に接触させないよう歩行するべき義務があったといえます。こうした義務を怠って接触させてしまった点で、過失が認められます。
自転車を駐輪していた人は、自転車放置禁止エリアに通行の邪魔になるような形で置いていたということであれば、この点で過失があるといえます。
また、自動車の持ち主も、駐車禁止のところに違法駐車しているとなれば、やはり過失が認められます」
3人それぞれに、過失が認められる可能性があるわけだ。では、過失の「度合い」はどのように考えればよいだろう。
「過失の割合は、自転車への接触と転倒、それによる自動車への接触が『どのような事情』で生じたのかによって、ケース・バイ・ケースで決まります。
たとえば、自転車や自動車が、歩行者の通行路に大きくはみ出して止めてあったというケースで考えてみましょう。
こうした『歩行者が接触してもやむを得ない事情』があれば、歩行者の過失割合は小さくなり、自転車や自動車を置いていた人の過失割合が大きくなるでしょう。
反対に、たとえ違法駐輪の自転車でも、これに当らないように歩行することが容易にできたのに、『歩きスマホ』や『よそ見』をしながら進行したために自転車に接触した、というようなケースであれば、歩行者の過失割合が大きくなるでしょう」
石井弁護士は、このように分析していた。
(弁護士ドットコムニュース)
【取材協力弁護士】
石井 龍一(いしい・りゅういち)弁護士
兵庫県弁護士会所属 甲南大学法学部非常勤講師
事務所名:石井法律事務所
事務所URL:http://www.ishii-lawoffice.com/