2014年11月15日 14:21 弁護士ドットコム
ついに領収書の電子保管が本格化する――。税務調査の際の証拠となる領収書や契約書の原本は、原則として7年間保管することが義務づけられている。しかし政府はその規制を緩和する方針だと、日本経済新聞が報じたのだ。
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これまで、3万円以上の領収書や契約書は、原本を7年間保管する必要があった。規制緩和が実現すれば、すべての領収書や契約書は、スキャナーで読み取って、画像データを7年間保存するだけでよくなる。
国内企業の契約書や領収書の保管コストは年間3000億円にのぼるという経団連の試算もあり、「ペーパーレス化」はコスト削減につながる可能性がある。電子保管の実現によって、どんなメリットが想定されるのだろうか。一方で、不正の横行などの課題はないのだろうか。宮川英之税理士に聞いた。
「現在、多くの企業では領収書を紙ベースで保管しています。経理のご経験がある方はご存じかと思いますが、かさばる紙の領収書のやり取りやスクラップ・ブック等への貼付作業には、相当な手間がかかります。
さらに、他の社内文書の電子データ化が進んだ今日であっても、領収書については過去何年分もの書類を保管する物理的なスペースを確保せざるをえません」
そうすると、電子化のメリットは大きいのではないか。
「報じられたような規制緩和が実現した場合、領収書の電子保管に取り組む企業が増加し、事務負担やコスト負荷の軽減が期待されます。また、書類の閲覧や検索が容易になることで、社内業務のスリム化や透明化に一役買う効果も期待できます」
課題はどういったところにあるのだろうか。
「電子保管を採用する場合には、要件を満たしたスキャナーや電子署名・タイムスタンプの導入等が求められることになるでしょう。そのハードルは決して低いものではありません。
導入・運用のコストを踏まえると、必ずしも電子保管を採用したほうが良いとは限りません。
さらに、紙ベースの領収書には筆跡や歳月の経過等が紙の状態に反映され、改ざんすれば痕跡が残るといった特質があります。電子保管によって、紙ベースのメリットが失われる点も見逃せないでしょう。
電子データの編集技術は日進月歩で進化していますので、電子保管された領収書が改ざんされる可能性もあり、不正行為の多発が懸念されます」
大きな転換点となるだけに、メリットを最大限に生かせる制度設計にすると同時に、課題への対策も十分に講じてほしいところだ。
【取材協力税理士】
宮川 英之(みやがわ・ひでゆき)公認会計士・税理士、公認情報システム監査人
一橋大学経済学部卒業。有限責任監査法人トーマツ等を経て開業。会計・税務顧問の他、豊富なIT経験を活かして企業経理や内部統制の効率化・簡素化支援を提供。
事務所名 : 宮川公認会計士事務所
事務所URL: http://miyagawa-kaikei.com/
(税理士ドットコムトピックス)