今シーズン圧倒的な強さを誇るメルセデスだが、第10戦ドイツGPではルイス・ハミルトンのマシンにブレーキトラブルが発生。しかし、その後は同様の問題を起こしていない。トラブル対策として、ブレーキディスクを供給しているブレンボ社が品質管理を徹底して行っていることはもちろん、メルセデスが熱の管理に気をつけていることも忘れてはならない。
ブレーキの冷却はアップライト内側のブレーキダクト(写真・赤色の矢印)からホイールの内部を通ってディスクを冷やす方法が一般的だが、それだけでなくアップライト内にもうひとつの通気口(水色の矢印)を設けて、そこから専用のダクト(青色の矢印)を通して、ブレーキパッドも冷却している。
メルセデスは、ブレーキの熱管理を異なる目的でも使用している。現在のF1マシンのブレーキは全車ドラムに覆われているが、これはブレーキダクトからブレーキディスクとパッドに流れた空気を単に制動時のブレーキの冷却のために使用するだけでなく、それ以外の目的に使うためである。たとえば、リヤブレーキでホイールの内側に取り付けたダクトから空気を排出することで、リヤタイヤ内側に発生する乱流を吹き飛ばし、リヤタイヤと車体との間に流れる空気流のスピードを向上させて、ダウンフォース増加につなげることもできる。
フロントブレーキで発生する熱は、タイヤの温度管理に使用される。駆動輪であるリヤタイヤは温まりやすいが、フロントタイヤはリヤに比べて温まりにくいからだ。特に90度コーナーが連続するシンガポールではフロントタイヤが温まりにくかったため、メルセデスはブレーキディスクを覆うドラムを外していた。また、2本のストレートを擁するアメリカGPではドラムは装着していたが、ドラム上方に開口部を設けて熱をホイール内側に排出し、タイヤの温度を管理していた。
反対に、ブリスターができるほどフロントタイヤのオーバーヒートに悩まされていたブラジルGPでは完全に密封したドラムを採用して、ブレーキの排熱がタイヤに干渉しない工夫をしていただけでなく、ドラムの一部にくぼみを設けて、ホイール内側に流れる空気を外側に排出してブレーキの冷却効果を高めていた。
(尾張正博)