トップへ

村上龍が「偉大なる普通」と絶賛 格安スイーツ「シャトレーゼ」の屈辱と反骨

2014年11月11日 15:40  キャリコネニュース

キャリコネニュース

写真

全国に455店舗を展開する菓子メーカー、シャトレーゼ。2014年11月6日の「カンブリア宮殿」(テレビ東京)の冒頭、MCの村上龍は「あざみ野のスポーツジムに行って帰ってくる途中に(店が)あり、毎日通っていた。なんでこんなにおいしいのに安いのか、ずっと疑問に思っていた」と明かす。

その秘密は、地元山梨の牛乳や卵など新鮮な材料にこだわり、巨大なラインを持つ工場で一括生産しているから。徹底して路面出店にこだわり、百貨店やスーパーには出店しない。番組では、村上龍が「天才的な怪物」と評するシャトレーゼHD社長・齊藤寛氏(80)をゲストに招き、その経営秘話を紹介していた。

「500万円の高級腕時計」を巻き続ける理由

山梨のぶどう農家に生まれた齊藤氏は、20歳の時に弟が経営する今川焼き店「甘太郎」を手伝うため、菓子業界に足を踏み入れた。行列ができるほど繁盛するが、それも冬場だけ。夏場にアイスクリームを手掛けてみたものの、大手メーカーが台頭し始めた時代で、ほとんど儲けにならない。

なんとか大手に対抗できないかと考えた齊藤氏は、難しい生菓子であるシュークリーム作りの工業生産を実現し、圧倒的に安い「10円シュークリーム」を売り出した。

当時は店を持たず、大手百貨店やスーパーに商品を納めている状態。まだ冷蔵ケースなどなく、低価格にして一気に売り切ることが売り上げアップの秘策となった。

そこで齊藤氏は屈辱的な経験をしている。スーパーから更なる値下げを要求されたり、協賛金の名目で金を要求されたりしてしまうのだ。商品を納めてきたある百貨店の外商が、当時500万円もする高級時計を勧めてきたこともあった。

結局、「これからもウチで売りたいなら」という無言の圧力を感じ、それを買うしかなかった。その時計は今でも腕にはめており、

「工場直売店ネットワークを作るきっかけを作ってくれた象徴のようなもの」

と大事にしているそうだ。これに村上龍は、「俺だったらダメだよ。この野郎って」と投げつけるようなしぐさをして、笑いながら感嘆していた。

ショッピングモールの出店依頼を「頑なに拒み続ける」

「スーパーに頭を下げるのは嫌だったんですか」という質問には、「僕はもともと『売りに行く』のではなく、買いに来てもらうような商品、店を作れと(社員に)話しています」と語った。頭を下げるのが嫌ではなく、顧客のためだけに努力したいということだろう。

1985年に工場直売店をオープンし、より高度な自動化ラインづくりを推し進め、生産農家と強固な結びつきを作った。ここ10年、全国の大手ショッピングモールからの出店依頼が絶えないが、出店料を払えば安く売れなくなるので頑なに拒んでいる。

番組では、シャトレーゼが経営するホテルやゴルフ場を紹介したほか、洋菓子先進国オランダに進出する様子も取り上げていた。農業大国でもあるオランダの農家たちとネットワークを作り、素材からこだわるケーキ作りをする。すでに出店している2店は、安くておいしいケーキ店として好評を博しているという。

番組制作前、齊藤氏の資料に自伝や自叙伝が全くなかったため、村上龍が「書く気はないですか」と問うと、御年80歳の齊藤氏はこう答えていた。

「いい歳になって、後世の人に伝え残したいという時でないと」

「まだまだこれから」という気持ちには一点の曇りもなさそうで、いまも毎日筋トレを行い、両足首に重りを日常的につけて、パワフルに溌剌としている。大手や小売店と戦ってきた反骨精神の経営者は、自らを鍛えることも怠らない。

村上龍も、心からシャトレーゼを気に入っているようだった。番組最後の編集後記で「偉大なる『普通』」という言葉を贈り、「味、値 段、店構え、不自然さがまったくない。『普通』であることは、人に安心と幸福を与える。今や、『普通の達成』は偉大さの証なのだ」と絶賛を惜しまなかった。(ライター:okei)

あわせてよみたい:お金があったら「従業員に分けたい」日高屋