Aさんは、小規模企画会社に勤める20代後半の女性。新卒で就職したブラック企業の営業で体調を崩して退職し、いまの会社に「企画アシスタント」の短時間勤務の契約社員として入社した。
そこで驚いたのは、おもな仕事はAさんのような契約社員や派遣社員が回していること。正社員たちは遅刻、早退が当たり前。仕事中もゲームや居眠りをしていたり、外出してサボっていたりしている。
クライアントとの連絡も非正規がやってるのに
正社員は非正規に対し、「あれやっといて」「これ考えといて」と指示を出し、ときどき「あれどうなってるの?」「早くやっておいてよ」と言うだけ。しかし正社員は仕事の中身を理解しておらず、進め方の助言もできないため、取引先やクライアントとの連絡は非正規が直接やっている。
しかも、驚くのは給与が倍以上も違うことだ。Aさんの年収は300万円だが、指示を出す正社員たちの年収は650万円。これは仕事の中身から考えて、明らかに不公平だ。
「嫌なら辞めればいい」のかもしれないが、これ以上勤務経験を増やしても転職に不利になるだけ。なんとか不公平を是正できないものか。職場の法律問題に詳しいアディーレ法律事務所の岩沙好幸弁護士に聞いてみた。
――仕事をする以上、仕事内容に見合った給料をもらいたいというのは、みなさん誰しもが思いますよね。非正規雇用の方が増えている現状では、正社員との不公平について不満を感じている方は多いと思います。
ご質問の賃金についての不公平を是正できないかという点についてですが、非正規雇用に関する法律として「短時間労働者の雇用管理の改善等に関する法律」(通称:パートタイム労働法)があり、パートタイム労働者と通常の労働者の均衡のとれた待遇を確保するための措置が規定されています。
まず、同法は、通常の労働者と同視すべき短時間労働者については、賃金、教育訓練、福利厚生などの待遇について、短時間労働者だからといって、差別的に取り扱うことを禁止しています。
事業主に掛け合い、ダメなら労働局に相談する方法も
通常の労働者と同視すべき短時間労働者といえるかについては、様々な要素を正社員と比較したうえで判断されます。例えば、職務の内容に関して言えば、
「業務の種類が同じか」「中心的業務は何か」業務を遂行するにあたって必要な知識や技術に差はあるか」
といった点を考慮します。また、転勤や配置換えの有無やその範囲などといった点も考慮されます。これらを考慮したうえで、Aさんが正社員と比較して同視すべき短時間労働者といえれば、賃金の差額相当について、不法行為に基づく損害賠償請求が認められる可能性があります。
同法は、そのような紛争の解決についても定めています。賃金への不満があれば、まず事業主に掛け合ってください。その場合、事業主には賃金格差について自主的に解決を図る努力義務が課されています。
都道府県労働局長に、紛争解決に関して助言等の援助を求めることもできます。さらに、簡単にすばやくできる解決手段として「紛争調停委員会の調停」という制度も用意されています。
正当な賃金を主張するのは、労働者の権利です。自身の賃金について、正社員と同じ仕事をしているのに…と不満を感じている方は、これらの制度を是非活用いただければと思います。
【取材協力弁護士 プロフィール】
岩沙 好幸(いわさ よしゆき)
弁護士(東京弁護士会所属)。慶應義塾大学経済学部卒業、首都大学東京法科大学院修了。弁護士法人アディーレ法律事務所。パワハラ・不当解雇・残業代未払いなどのいわゆる「労働問題」を主に扱う。動物好きでフクロウを飼育中。近著に『ブラック企業に倍返しだ! 弁護士が教える正しい闘い方』(ファミマドットコム)。『弁護士 岩沙好幸の白黒つける労働ブログ』も更新中。頼れる労働トラブル解決なら≪http://www.adire-roudou.jp/≫
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