2002年に全日本F3に参戦し、現在は車椅子ファッションブランド『Piro Racing』代表として活躍する長屋宏和が、6日赤坂御苑で開催された天皇、皇后両陛下主催の秋の園遊会に参加した。
長屋はカートを経て2000年~01年とフォーミュラドリームに参戦。2002年は全日本F3にステップアップし、幼少の頃からの夢であるF1ドライバーを目指した。しかし2002年のF1日本グランプリで、サポートレースとなったフォーミュラドリームにスポット参戦した際、スプーンでクラッシュ。空中で何度も回転し、当時はHANSデバイスも普及しておらず頸椎損傷/四肢麻痺の重傷を負い、チェアウォーカーの生活となった。
しかしF1ドライバーの夢を諦めない長屋は必死のリハビリを経て、2004年にはハンドドライブでのレーシングカート走行を実現し大きな感動を呼んだ。また現在もハンドドライブ用に改造したクルマを自ら運転し、2010年には軽自動車のレース、K4GPへの参戦も実現している。
そんな長屋はチェアウォーカーでの生活となってから、ひとつの“不満”があった。それは、好きなファッションを楽しめないことだった。大好きなジーンズを履きたくても、縫い目やポケットでお尻に負担がかかり褥瘡ができてしまったり、背中が出てしまったりする。
そこで、長屋の母であるモードフィッターの長屋恵美子さんの技術を活かし、チェアウォーカー向けのファッションブランドとしてできあがったのが『Piro Racing』。最初にできあがったピーチスマイルジーンズは、健常者が履いても楽しめる逸品だった。リハビリ、そしてファッションブランドを立ち上げるまでの苦労は、長屋の自著『それでも僕はあきらめない(大和出版)』に詳しい。
チェアウォーカー用ジーンズやウェディングドレス、バッグなど、車椅子で生活する長屋がその経験で生み出したファッションアイテムは大ヒット。特に、雨での外出を可能にするチェアウォーカー用レインコートは、そのクオリティの高さで多くのチェアウォーカーに愛用されている。
長屋はそんな功績もあり、多くの講演に参加したりとアクティブに活動をこなしているが、昨年日本青年会議所主催の『人間力大賞』でグランプリ、内閣総理大臣奨励賞を受賞。その流れもあり、秋の園遊会に招待された。
「赤坂御苑の空気と、皇族の皆様のオーラは今までに感じたことがない特別な空気の中で、天皇皇后両陛下とお話することができました」と長屋は緊張しながらも、天皇、皇后両陛下と会うことで緊張が解けたという。自己紹介をした後、皇后陛下から「車椅子レインコートが皆様のお役に立てて、これからも頑張ってください」と声をかけられた。
これには長屋も「思ってもいなかったお返事を頂き、正直驚きました。参列者が1800名もいらして、参列の順番も場所も決まっていないのに、どなたかが教えることもなくイヤホンもなく、1800名全員のお名前と経歴が頭に入っているのだと感じました。本当に凄いことです。素晴らしかったです」と感動したという。
さらに長屋は、安倍晋三首相と昭恵夫人、麻生太郎副総理とちか子夫人と食事をする機会にも恵まれ、『人間力大賞』のお礼を伝え、ゆっくり話をすることができたという。
「今後につながる貴重な経験をさせて頂きました。このような素晴らしい場所に参列できたのも、これまで支えて頂けた多くの皆様のお力のおかげです。今後も自分の信念を曲げず、小さなことから大きなことまで行動すべてに目標を立て、一歩ずつ進んでいきたいと思います」と長屋。まだまだ彼の挑戦はさまざまな驚きを与えてくれそうだ。