路面が全面的に再舗装されたアウトドローモ・ホセ・カルロス・パーチェで行われた、今年のブラジルGP。新しくスムースな路面で、タイヤに優しくなるはず……との予想を裏切り、濃くなった路面の色により路面温度が高温となるなどしたため、非常にタイヤに厳しくなり、各チーム戦略面で頭を悩ませました。そして多くのチームが3ストップ戦略を採用しましたが、フェラーリのキミ・ライコネンだけが唯一2ストップ作戦を採用。7位入賞を果たしました。彼のペースを基本に、ブラジルGPの戦略を振り返ってみましょう。
路面温度が高いことで、ミディアムタイヤにも視認できるほど大きなブリスター(タイヤ表面のゴムが沸騰してしまう現象)やグレイニング(タイヤの滑りによるささくれ摩耗)が多発した今回のレース。通常ならばタイヤがこのような状態になればペースダウンが確実で、一刻も早くタイヤを交換したいと、どんなチームでも思うはずです。そのため、各チームは早めにピットインし、タイヤを交換するという戦略を採用しました(もちろん、安全面も考慮したはずです)。しかし、ラップタイムの推移を見てみると、実はミディアムタイヤを履いているマシンのラップタイムが、下落傾向になかったことが分かります。常に、ほぼ横ばいで推移しているのです。
ライコネンはこのタイム推移を2回目のピットストップ時に把握したようで、2ストップ戦略に切り替え、最後まで走りきることを選択しました。フィニッシュまでは36周と非常に長かったので、大きなペースダウンこそなかったものの、新品タイヤの恩恵を受けてペースアップしたジェンソン・バトン、セバスチャン・ベッテル、フェルナンド・アロンソらの先行を許し、スタートから3つ順位を上げた7位でフィニッシュ。しかも最初のピットストップ前に先行を許していた、マクラーレンのケビン・マグヌッセンや、ザウバーのエステバン・グティエレスよりも前でチェッカーを受けているわけですから、ライコネンの2ストップ戦略は成功だったと言って差し支えないでしょう。
それよりも戦略的に面白かったのは、フォース・インディアのニコ・ヒュルケンベルグです。多くのマシンがソフト→ミディアム→ミディアム→ミディアムとタイヤを繋いだのに対し、ヒュルケンベルグはミディアム→ミディアム→ミディアム→ソフトと、他とはまったく逆のタイヤ選択をしました。
ソフトタイヤでスタートしたドライバーたちは、レース開始早々にタイヤのデグラデーション(性能劣化)に苦しみ、10周持たずにタイヤを交換しなければならなくなっています。しかし、路面にタイヤのゴム(ラバー)が載ったレース終盤には路面のグリップが上がり、しかも燃料を消費して車体も軽くなっているため、タイヤの持ちが良くなる傾向にあります。その際にソフトタイヤを履いたヒュルケンベルグは、ミディアムよりもペースの良い(しかしタレの早い)ソフトタイヤの一番美味しいところを使うことができたという印象。ライコネンまで0.5秒まで迫る、8位でフィニッシュしています。レースの最終盤には、ミディアムタイヤを履くメルセデスAMGに匹敵するほどのペースで走っていましたから、もしもう数周早くソフトタイヤを投入していれば、アロンソをも交わすことができたかもしれません。
なお、レースペースでもうひとり気になったドライバーがいます。それはウイリアムズのバルテリ・ボッタスです。レース序盤と終盤はトップレベルのペースで周回しましたが、なぜか2回目のピットストップ(この時にシートベルトの弛みを解消するため、大きなタイムロスをしています)から最終スティントの途中までのペースが非常に遅く、かなり後退してしまいました。ボッタスのコメントによれば「大きなグレイニングができた」ということですが、フェリペ・マッサも同じタイミングで同じタイヤを履いていたわけですし、最終スティントの途中でペースが戻るというのも非常に不可解でした。
しかしマッサは、マシンの速さに助けられましたが、ともすれば命取りにも繋がりかねないミスを連発。ピットレーンの速度違反を犯したり、間違えてマクラーレンのピットに入ってしまったり……今回は良くも悪くも3位というレースでしたが、このようなミスが基で、たとえば優勝を逃すようなことがあっては、悔やんでも悔やみきれません。再発防止策を、なんとしても講じてほしいところです。
(F1速報)