2014年11月09日 21:41 弁護士ドットコム
子どもの虐待死はどうすればなくすことができるのか。そんな問題を考えるシンポジウムが11月9日、東京・虎ノ門のニッショーホールで開かれた。集会では、昨年1年間に虐待によって亡くなった子どもたちの名前や、亡くなった経緯が読み上げられ、参加者たちが黙祷を捧げた。
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講演した国立成育医療研究センターの森臨太郎・政策科学研究部長は、「子どもの死を減らすために、個人、家族、社会、政策のレベルで、どういうことができるか考えるべきだ」と訴えた。
子どもの虐待死を防ぐために、具体的にどのようなことができるのか。
森氏は「ある子どもの死について、虐待死かそうでないかを見極めることは難しい。虐待死を含めた子どもの死を1つでも減らすためには、一定地域の子どもの死亡をすべて把握し、どうすれば死を防げたのか検証することが必要だ」と説明する。
「子どもの死」を少しでも防ぐために、森氏が取り組んでいるのが、「子どもの死因」を調査・検証する「チャイルドデスレビュー」だ。調査の結果、東京都内で2011年になくなった0歳~4歳児のうち、257例の詳細を把握できたという。
虐待による死亡が疑われたのは、そのうちの4例だった。また、死亡を「予防できた」と判定された症例が16件あったという。「予防できた」とされた症例の中で特に多かったのは、溺死と就寝中などにおける窒息死だった。
森氏はこの結果について、「ベッド周辺や水回りの環境を整えることで、子どもの死は予防できた。子どもの安全を確保するための知識を保護者に身につけさせることが、子どもの死を防ぐために有効だ」と語った。
こうした「チャイルドデスレビュー」は、アメリカでは法律に基づいて公的機関が実施している。しかし、日本ではまだ法制化に至っていない。
またわが国では、個人情報保護の観点から、子どもの死因について充分な情報が得られず、調査が難航する場合もあるという。
こうした点について、子どもの虐待問題を研究している才村純・関西学院大学教授は、親に「ネグレクト」された子どもが死んでしまったケースに触れて、次のように話した。
「このケースでは、何かおかしいと気づいた近所の人が通報し、児童相談所の職員が確認に行っていた。
しかし、インターホンを押しても応答がなかったため、職員はそこで諦めてしまった。個人情報の問題で、通報があったということがなかなか言い出せず、合鍵を借りられなかったようだ。
こうした気持ちは分からなくもない。しかし、虐待が疑われる家庭に対して安全確認を行う場合は、関係機関や近隣住民の協力を得ることができると法律上保証されている。
個人情報よりも、子どもの命を大切にするという意識改革が必要だ」
なぜそんなことが起きるのか。才村教授は次のように指摘する。
「児童相談所の職員は、早くて2年程度で全く違う部署に異動することが多い。これでは、専門性が身につかない。
(専門職の)児童福祉司として必要な専門性を身につけるには5~10年の経験が必要だが、専門性を高めていける体制が組織の中で確立されていないのが大きな問題だ。
いくら緻密な検証をして、具体的な対応を示しても、行政の体制がそれに追いついていない」
シンポを主催したNPO法人「児童虐待防止全国ネットワーク」の吉田恒雄理事長は、次のように集会を締めくくった。
「虐待で命を落とした子どもの死を無駄にすることなく、彼らの死を受け止めて、そこから最大のものを学び取り、こうした悲劇が起きないようにしなければならない。虐待死をなくそうという熱意はもちろんのこと、客観的でクールな視点からも、虐待をなくすための施策を考えていきたい」
(弁護士ドットコムニュース)