2014年11月09日 16:41 弁護士ドットコム
ネットにあふれる玉石混交の情報。それらのうち重要なものだけを集め、見やすい形に整理した「まとめ記事」が人気だ。そうしたまとめ記事を集める専門サイトも登場し、「まとめサイト」と呼ばれている。
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まとめサイトに対しては、「他人が作った文章や画像をコピペするだけで、ページビューを稼いでいる」といった批判もある。他人の書いたものを勝手に使って「まとめ記事」を作ることは、法的に問題ないのか。著作権法にくわしい雪丸真吾弁護士に聞いた。(取材・構成/関田真也)
――他人の画像や文章を使って「まとめ記事」を作り、それを公開することに、問題はないのでしょうか?
「ネット上に存在する、他人が作った文章や画像は、ほぼすべて『著作物』に該当します。
著作物は、著作権法で保護されています。自分のサイトに使う場合は、著作権者の許可が必要です。許可がないのに『まとめ』に使えば、違法となる可能性があります。
ただし、中には『まとめ』に自分の作ったものが使われて『拡散』することを喜ぶ人もいると思います。ケースバイケースですが、そのような場合は、明確に許可を取らなくても、黙示の許諾があったと評価できる場合はありますね」
――「まとめ記事」のすべてが、そうした許可をもらっているとは思えないのですが・・・。
「許諾以外の法律構成を考えてみましょう。著作権法32条1項には『公表された著作物は、引用して利用することができる』と書いてあります。
自由な言論や批判・批評を行うことができるようにするために、『引用』に当たる場合は『許可が不要』とされているのです。
したがって、もし、文章や画像の利用が、著作権法上の『引用』として行われたのであれば、著作権者の許可がなくても、利用は可能です」
――まとめ記事の記述が「引用」かどうかは、どのように判断されるのですか?
「著作権法32条1項は、『公表された著作物は、引用して利用することができる。この場合において、その引用は、公正な慣行に合致するものであり、かつ、報道、批評、研究その他の引用の目的上正当な範囲内で行なわれるものでなければならない』と規定しています。
これをクリアするための条件、つまり正当な『引用』と言えるかどうかの条件は、伝統的には次の5つだと言われてきました。
(1)引用する対象が『公表された著作物』であること
(2)利用者の作品も『著作物』であること
(3)利用者の作品と、引用される著作物が明瞭に区別されていること(明瞭な区別)
(4)利用者の作品が「主」、引用される著作物が「従」となっていること(主従関係)
(5)どこから引用されたのかを明確にすること(出所の明示)」
――まとめ記事に当てはめて考えると、どうなりますか?
「『まとめ記事』は、そのほとんどが他人が作った著作物で構成されていることが多いですから、(2)の点、つまり利用者の作品自体が『著作物』といえるかが、争点となりそうです。
また、(4)の『主従関係』の条件を満たすのかという点も問題になりそうです」
――この基準だと、多くの「まとめ」は「引用」と認められないのでは?
「伝統的な基準によると、『引用』と認められるかどうかは難しい点がありますね。しかし、最近では判例に新たな動きが出てきています。
代表的なのは、2010年10月13日に、知的財産高等裁判所が出した判決です。専門家の間では、『美術鑑定書事件』として知られています」
――その判決で示された基準とはどういうものですか?
「簡単にいうと、引用がきちんと成立しているかどうかは、次の4つの要素によって決めるという判断です。
(1)利用の目的
(2)利用の方法・態様
(3)利用される著作物の種類や性質
(4)著作権者に及ぼす影響の有無・程度」
――伝統的な基準と何が違うのですか?
「伝統的な基準と異なり、利用者の作品が『著作物』といえるかは問題としていません。また、細かく条件を定めるのではなく、総合的に事情を考慮して判断する形になっていますね。
この判決からは、『引用』を認める範囲について、個別具体的に、柔軟に対応するのだという、裁判所の方針を読み取ることができます」
――新しい基準によれば、まとめ記事が「引用」と認められる範囲も広くなるのでしょうか?
「そうですね。ただ、この基準が示されてから、まだそれほどの時間が経過していないため、各要素を具体的に判断している判例が十分に積み重なっていないのが現状です。
『引用』が認められるかは、すべて個別具体的な判断ですから、実際に裁判で争われて結論が出るまでは、違法かどうか厳密には決まりません。常にグレーゾーンです。
また、著作権侵害事件の問題として、『損害』の認定額が低額に留まることが多く、費用をかけて裁判まで行うことがあまりないため、裁判所による判断がされるところまでなかなか行き着かないという現実があります」
――もし、「まとめ記事」が他人の著作権を侵害していた場合、投稿をした人が責任を負うことになると思います。それでは、まとめサイトの運営会社はどうでしょうか?
「ユーザーが自由に投稿できる『まとめサイト』なら、運営者の責任は、プロバイダ責任制限法によって制限されます。サイトの運営者は、原則として、投稿内容について直接の責任を負いません。
権利を侵害されたという申立があった場合に、適切に対応すれば良いということになります。
このプロバイダ責任制限法は、掲示板や動画サイトなど、不特定多数のユーザーが投稿するタイプのサービスについて、事業者に多大な負担を負わせないようするためのものです」
――「原則として」ということは、例外はあるのでしょうか?
「プロバイダ責任制限法3条1項2号によると、『他人の権利が侵害されていることを知ることができたと認めるに足りる相当の理由があるとき』には、運営側も責任を負うことになります。
『まとめサイト』は、名前からも分かるように、ネット上にある他人の著作物を使うことが、最初から想定されているサービスです。
そうすると、他人の著作物が許可なく利用される可能性が高いと言えるでしょう。『まとめ記事』が、この2号に該当するという判断は、十分有り得るように思われます」
――そうした法的問題を厳密に考えると、「まとめ記事」や「まとめサイト」を作るのは、簡単ではなさそうですね。
「たとえば、法律を改正して、『まとめサイト』を正面から適法だとしてしまえば、根本的に問題が解決します。
ヤフーやグーグルなどの検索エンジンも、他人の作成した文章や画像をサイト上に表示することになるため、複製権や公衆送信権を侵害する可能性が指摘されていました。そこで、2009年に著作権法が改正され、問題は解決しました。
ただ、『まとめサイト』も同じように解決できるかというと、難しいかもしれません。
検索エンジンはその有用性が極めて高く、著作権者に与える不利益も大きくないため、法改正で正面から適法性を認めることになりました。
しかし、他人の著作物の利用の度合いが大きい『まとめサイト』を、立法で正面から保護することに、世論の賛同が得られるかは微妙なところではないでしょうか」
(弁護士ドットコムニュース)