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ステーキ店長「パワハラ自殺」で遺族全面勝訴 「恋人・親子関係が原因」とする会社主張を全否定

2014年11月05日 19:00  キャリコネニュース

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飲食チェーン「ステーキのくいしんぼ」の店長だった男性(当時24)が2010年に自殺したことについて、東京地方裁判所は2014年11月4日、運営会社サン・チャレンジ(東京)に約5790万円の賠償を命じた。

男性は2007年に入社。以来少なくとも2年9か月にわたって、1日12時間以上の長時間労働や休日出勤が恒常化していた。上司からは「バカだな」「使えねえ」など暴言を浴び、しゃもじで殴られるなどの暴行も受けていたという。仕事後にも無理やり釣りやカラオケに付き合わされ、休日に「ソースを買ってこい」など使いっぱしりをさせられていた。

会社に加え「社長や店長の個人責任」も認める

東京・渋谷のセンター街店で店長として働いていたこの男性は、10年11月に遺書を残し、ビルの非常階段で自殺した。渋谷労基署は2012年に、この自殺を労災と認定している。

この件が裁判になると、会社は「労働が苦痛ならばとっくに退職している」と主張し、会社の責任を否定。自殺の原因は「恋人関係の破綻と親子関係の悪化」と述べたという情報が流れ、ネットユーザーからは激しい反感があがっていた。

今回の判決で山田明裁判長は、被告である会社に対し、

「長時間労働やパワハラが自殺につながったもので、ほかの原因は認められない」
「業績向上を目指すあまり、適切な労務管理体制を取っていなかった」

と断じ、上司や社長の個人責任も認めた。また、男性側の過失で賠償額が減額される「過失相殺」をいっさい認めなかった。

男性の父親は会見で「長時間労働とパワハラで命を落としたことが証明され、息子の名誉回復になった」と話した。原告側の弁護士も会見で、「判決は原告に落ち度がなかったと判断しており画期的」「長時間労働やパワハラに苦しむ人に勇気を与える判決」と評価した。

一方で、過重労働やパワハラのひどさから、「5800万円の賠償では足りないのでは?」「命の値段が安すぎる」と、裁判結果に納得できない人も声もある。

早くからこの裁判の経緯を記事にしていたMyNewsJapan編集長の渡邉正裕氏も、ツイッターでこうつぶやいている。

「休日が7カ月で2日だけ、月360時間超の残業時間。そういう労務管理やって過労死させても、5700万の賠償金だけ。安すぎる。ケタを1つ上げなきゃ」

今後の過労死裁判に影響を与える可能性も

この件について、労働問題に詳しい弁護士A氏にキャリコネニュースが取材すると、

「確かに逸失利益はもっと上積みされても良いとは思いますが、約7300万円という請求額の約8割が賠償額となっているわけですから、ほぼ原告の主張が認められたと言っていいでしょう」

と感想を述べた。逸失利益とは、「本人が生きていたら得られたはずの収入」から生活費を控除したもの。確かに2億から3億といわれるサラリーマンの生涯年収を考えたら、24歳の男性を死亡させた賠償請求額としては安いようにも思える。

ただし、特筆すべき点もあるという。これまでの過労死裁判では、本人がうつ病を発症していたり仕事ができなかったりする場合などは「過失相殺」が認められることが多かった。

しかし今回の裁判では「強い心理的負荷で精神障害を発症させた」のは会社側の不適切な労務管理が原因であり、会社側の主張はいずれも「証拠がない」と退けられた。

A氏は「たまたま今回の裁判では男性の過失が認められなかっただけ、という可能性もあるが」と前置きしつつ、こうした判例が出たことは今後のパワハラや過労死、長時間労働についての裁判で、原告側に有利に働くのではと話す。

「この判例を機に、『賠償額の過失相殺を安易に認めない』と多くの裁判官が考え方を変える可能性もある。また同種の裁判で原告側は、今回の判例を根拠に『過失相殺はない』と主張できる。そうなれば、今回と同じような判決が増える可能性もあるでしょう」

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