2014年11月05日 11:21 弁護士ドットコム
自分の口座に振り込まれたお金を転送するだけで、お金がもらえます――。そんな怪しいメールが届いたら、注意したほうがよさそうだ。軽い気持ちで引き受けると、犯罪に問われる可能性があるからだ。
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報道によると、犯罪収益の海外送金を手伝ったとして、宮崎県内の男性が9月中旬、犯罪収益移転防止法違反の疑い逮捕された。男性は今年3月、不正なネットバンキングで振り込まれた約213万円を海外に送金し、報酬として24万円を受け取ったとされる。男性はメールで送られてきた求人広告を見て、応募したのだという。
このように犯罪収益の海外送金を手伝う人を「マネーミュール」と呼ぶそうだ。あまり聞き慣れない言葉だが、いったい何なのだろうか。桑原義浩弁護士に聞いた。
「マネーミュールの『ミュール』は、英語で『ラバ』(ロバと馬をかけあわせた動物)という意味です。ラバは荷物運搬に使われることから、マネーミュールは『お金を運ぶラバ』、つまり不正な資金の『運び屋』のことを意味します。
犯罪組織は、インターネットバンキングの不正アクセスなどで得た犯罪収益を、マネーロンダリング(資金洗浄)しようとします。その際、資金移動業者を利用して海外に送金するようですが、マネーミュールはその中継役となっているのです」
今回の事件では、海外送金をした男性が「犯罪収益移転防止法」違反の疑いで逮捕された。マネーミュールはこの法律で取り締まられているのだろうか。
「そのとおりです。『犯罪収益移転防止法』は、マネーロンダリングを取り締まる法律といえます。
この法律では、資金移動業者に『疑わしい取引』を届け出る義務を定めることのほか、たとえば、他人名義の口座を使って金銭を受領しようとしたり、相手方がこのような目的を持っていることをわかっていながら、通帳やキャッシュカードを受け渡す行為も犯罪とされています。
今回のケースのようにマネーミュールは、第三者に口座を利用させているといえるので、これも罪に問われます」
犯罪で得られた金とは知らなかった、では済まされない?
「多額の金が自分の口座に振り込まれて、海外に送金する手伝いをするだけで、10%程度の報酬が得られる――。落ち着いて常識的に考えると、『こんな話は怪しい』と思わないほうが不自然でしょう。
法律上は、実情を知らなくても、他人が自分名義の口座を利用することの認識があれば処罰されます。知らなかったでは、済まされません。
また、犯罪収益を移転する目的で利用された口座は凍結されます。いったん自分名義の口座が凍結されると、その後は銀行口座が開設できなくなるおそれもあります」
桑原弁護士はこのように説明したうえで、次のように注意を呼びかけていた。
「最近では、携帯電話を契約し本体を送って審査に合格すると『50万円が振り込まれる』といった手口もあります。送った携帯電話は振り込め詐欺などに使われてしまいます。犯罪組織や悪徳業者は、いろいろな手口を使って、みなさんの情報を悪用しようとしてきますので、注意が必要です」
(弁護士ドットコムニュース)
【取材協力弁護士】
桑原 義浩(くわはら・よしひろ)弁護士
日本弁護士連合会消費者問題対策委員会(金融サービス部会、違法収益吐き出し部会)、福岡県弁護士会消費者委員会、民事手続委員会、司法修習委員会等。全国証券問題研究会、全国先物取引被害研究会などに多数参加している。
事務所名:弁護士法人しらぬひ柳川事務所
事務所URL:http://www.shiranuhi-law.com/