トップへ

「AED」のため女性の服を切ったら「痴漢」扱いされた――人命救助でもダメなのか?

2014年11月03日 12:51  弁護士ドットコム

弁護士ドットコム

記事画像

「AED(自動体外式除細動器)」をつかって女性を助けたら、痴漢として警察に通報されたというエピソードが10月中旬、ツイッターに投稿されて大きな話題を呼んだ。


【関連記事:もし痴漢に間違われたら「駅事務室には行くな」 弁護士が教える実践的「防御法」】



ツイートによると、投稿者の男性は、たまたま居合わせた交通事故現場で、事故車に乗っていた女性が心停止状態だったため、すぐさま人工呼吸と胸部マッサージを開始した。そして、「AED」の電気パッドを貼り付けるため、女性の服をハサミで切ろうとしたところ、女性の同伴者から「服を切るな」「痴漢だ!やめろ!」と言われ、制止されたのだという。



男性は「そんなことを言ってる場合じゃない」と反論して、構わず女性の服を切り、AEDを使ったが、その後到着した警察官から痴漢の疑いで事情を聴かれるはめになったそうだ。



結局、男性はおとがめなしどころか、人命救助で感謝されたということだが、AEDを使おうとして痴漢呼ばわりされるのは、納得がいかなかっただろう。今回のケースのように、人命救助のために女性の服を切った場合でも、犯罪になってしまう可能性があるのだろうか。刑事事件にくわしい大川一夫弁護士に聞いた。



●投稿者は罪に問われるのか?


「一般的に、女性の服を切った男性が罪に問われるとすれば、『器物損壊罪』か『強制わいせつ罪』でしょう」



大川弁護士はこのように切り出した。



「まず、強制わいせつ罪ですが、この犯罪が成立するには、犯罪者が性的意図を持っていたかどうかが問題になります。



今回のケースでは、男性は心停止している女性を助けるためにAEDを使おうと服を切ったわけですから、性的意図はありません。したがって、そもそも強制わいせつ罪は成立しません」



●器物損壊罪に問われる可能性は?


それでは、「器物損壊罪」はどうだろうか?



「実際に、女性の服(器物)を切ったわけですから、器物損壊罪の構成要件に該当することは間違いありません。



しかし、刑法37条では、『自己または他人の生命、身体、自由または財産に対する危険を避けるためにやむを得ずした行為は、これによって生じた害が避けようとした害の程度を超えなかった場合に限り、罰しない』と規定しています」



これは「緊急避難」と呼ばれる行為で、要件を満たせば、罪に問われないのだ。



「今回、男性は心停止している女性の人命救助のために、やむを得ず器物損壊をしました。人命救助のほうが、『服を切る』という器物損壊よりも重要なのは間違いありません。したがって、男性の行為は犯罪になりません」



大川弁護士はこのように説明していた。



(弁護士ドットコムニュース)



【取材協力弁護士】
大川 一夫(おおかわ・かずお)弁護士
大阪弁護士会所属、元同会副会長。
労働問題特別委員会委員、刑事弁護委員会委員など。日本労働法学会会員、龍谷大客員教授。連合大阪法曹団幹事、大阪労働者弁護団幹事など。
事務所名:大川法律事務所
事務所URL:http://www.okawa-law.com