中流階級の米国人の22%が、「退職後に快適に生活するだけの十分なお金がなかったら、むしろ早死にした方がいい」と思っている――。これは10月27日付の米ハフィントンポストに、ベン・ワルシュが寄稿したショッキングな記事です。
記事が取り上げているのは、米西部の大手金融機関Wells Fargo(ウェルズ・ファーゴ)が実施した調査結果。「社会保障が退職後の主な所得供給源になる」と考える人は全体のわずか30%で、401k(確定拠出個人年金制度)の発効から30年間経っても、「あてになるのは個人貯蓄」というイメージが、人々の意識にしっかりと根付いていることが分かります。
50代の米国人の4割が「退職に備えた貯蓄をしていない」
この調査はまた、米国人は年をとるにつれ、個人的な退職貯蓄が不十分と深く認識していることを明らかにしています。50代の回答者の48%は、「今仕事を辞めたら生活していけない」と答えています。十分な貯蓄のない人たちは、働き続けるか、生活水準を下げることに甘んじなければなりません。
なお、調査では「ミドルクラス」を、年収が5万ドル(約540万円)から10万ドル(約1080万円)の30~75歳、および2万5000ドル(約270万円)から9万9000ドル(約1070万円)までの25~29歳の世帯と定義しています。
この定義は通常よりも広めですが、米国の経済問題をより浮き彫りにしているといえるでしょう。つまり中流階級の米国人の現状は、こういうことになります。
・19%が、退職貯蓄ゼロである
・34%が、現在退職のための貯蓄をしていない
・50~59歳の米国人の41%は、現在退職に備えて貯蓄していない
これらを基にしてみると、ほとんどの定年退職者は、現在の生活水準を保つことができません。退職者の収入は、退職前の70~80%はなければならないと言われています。米国の個人貯蓄額の中央値は、わずか2万ドル(約216万円)です。
401kで比較的多くの貯蓄をした40代でも、その中央値は5万ドル(約540万円)に過ぎず、現在の世帯収入中央値である5万1900ドル(約560万円)からすると、これは退職後1年で消えてしまう額です。
所得はここ10年右肩下がり。節約も限界に
ちなみに、米国の企業には退職金制度がありません。退職に備えて企業が金銭を積み立て、退職時に後払いする制度は、終身雇用の日本企業ならではの発想と思われます。
では、人々はなぜもっと貯蓄しないのか。この調査では「貯蓄のために『犠牲』にするものは何か」と尋ねていますが、半分以上の人々が「スパ(温泉)の訪問や外食、宝石類などの自由裁量の支出を減らすだろう」と答えています。
しかし実際には、多くの米国人はそういったものにあまりお金を費やしてはいません。米国人の支出の約65%を占めているのは、住宅や医療、食品、交通費。所得はここ10年間落ち続け、定年に備えて貯蓄できないのは意志の欠如のせいではないのです。
この報告にはWells Fargo社の「退職者サービスサイト」へのリンクが張ってあり、不安を煽られてしまうには注意が必要です。ただ、節約で苦境を乗り切れる人は、それだけの財力を持っている人だけであり、ほとんどの人が退職後には生活レベルを維持できません。
Wells Fargoのキム・ウィムビシュは、「問題なのは、退職者がもっと収入を増やすことを心配しておらず、株式投資にも懐疑的なことだ」と発言しています。しかし大多数の米国人は、すでに老後の収入のことで頭がいっぱいなはず。「株式投資でもすればいいのに」とマリー・アントワネットのようなことを言われても、彼らの心には届かないでしょう。
(参考)22 Percent Of Americans Would Rather Die Than Retire Without Enough Money (The Huffington Post)
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