2014年11月02日 09:51 弁護士ドットコム
外れ馬券は経費か――大阪府の男性が、「競馬で勝った分を大幅に上回る課税をされたのは違法」と主張して、国税局による課税処分の取り消しを求めていた行政訴訟で、大阪地裁は10月上旬、処分の一部を取り消す判決を下した。国側は判決を不服として大阪高裁に控訴した。
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男性は市販の競売予想ソフトを改良し、2005年から2009年までの間に35億1000万円の馬券を購入。約36億6000万円の払戻金を得ていた。実質的に男性の手元に残った額は1億5000万円だったわけだ。ところが国税局は、経費として考えられるのは「当たり馬券の購入費」だけだとして、男性に8億1000万円を課税。男性が課税処分を不服として裁判を起こした。
大阪地裁の判決は、男性が毎週末に数百万円を使って様々な組み合わせの馬券を大量購入していたことから、一般的な馬券購入と異なる「営利目的の継続行為だった」と認定。「外れ馬券の購入費」についても必要経費とする考えを示した。
この大阪地裁の考え方を、税の専門家である税理士はどう見ているのか。阿久根寛宜税理士に聞いた。
「まず、どこが争点となっていたのかを確認しましょう。所得税法では、『所得の区分』で税金の計算方法が違います。今回の裁判は、『区分が何であるか』を争っていたわけです」
国と原告はそれぞれどのような主張をしていたのだろうか。
「簡潔にいうと、国は、競馬や競輪の払戻金は『一時所得』にあたると主張していました。
一時所得とは、『営利を目的とする継続的行為から生じた所得以外の所得で、労働の対価や物を売った対価としての性質を有しないもの』と所得税法で定義されています」
つまり、次の2点を満たせば、「一時所得」とみなされるわけだ。
(1)営利目的の継続的行為で得た所得ではない
(2)働いたり、何かを売った対価ではない
そうだとすれば、何だというのだろうか?
「一時所得について、経費として認定されるのは、『その収入を生じた原因の発生に伴い直接要した費用』に限られます。つまり、競馬でいうと、当たった馬券の購入費のみが経費で、外れ馬券はすべて経費にならないと、国側は主張したわけです」
では、原告である男性側の主張はどんなものだったのだろう。
「原告は、自分の馬券購入行為が『営利を目的とする継続的な行為』だから、一時所得ではなく、『雑所得』だと主張しました。
『雑所得』であれば、直接要した費用のみならず、業務上必要となった費用なども経費とすることができます。
つまり、当たった馬券だけでなく、外れ馬券の購入費も合わせて経費だと主張したのです」
「国側の主張の根拠となっていたのは、国税庁の基本通達34-1です。この通達には、一時所得の例として『競馬の馬券の払戻金、競輪の車券の払戻金』が挙げられています。
基本通達は、これまでの過去の経験や判例などから妥当とされた法令の解釈です。法律ではありませんが、法律に準ずる存在として、基本的には守るべきだと考えます。
しかし、今回の場合、解釈の妥当性には疑問を感じます」
どういう点だろうか?
「基本通達34-1で想定しているのは、あくまで『休みの日に競馬や競輪ファンが、当たりを予想して勝った負けたを楽しんでいる』といったケースではないでしょうか。
原告のように、年間を通じて全国のレースデータを研究し、そのデータをもとに市販の競馬ソフトを改良して利益を得るという場合は、想定していないはずです。
『競馬の払戻金だから一時所得である』という、杓子定規な判断は間違っていると思います」
なぜ、「間違っている」と思うのだろうか。
「大きくいうと、ひとつ目の理由は、『一時所得』の定義と、実際に行われていたことがとかけ離れていることです。
そして、もうひとつの理由は、税負担を受け持つ力(担税力)のない個人に過大な課税をしても、国として税収が入るわけでもなく、ただ一個人の人生を破滅させることでしかないからです」
阿久根税理士はこのように述べていた。
【取材協力税理士】
阿久根 寛宜(あくね・ひろのり)税理士
税理士事務所所長。理系出身の税理士でIT、会計に強みをもつ。経営者のよき理解者、会社のペースメーカーとなることをモットーに質の良い税務会計サービスを提供している。ITを用いた経理の合理化、開業支援業務を得意とし、シンプルかつパワフルな会社経営となるよう丁寧で親身な指導を行う。
事務所名 : 阿久根寛宜税理士事務所
事務所URL:http://akune-tax.com/
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