2014年11月01日 12:51 弁護士ドットコム
東京都は、騒音として条例で規制対象になっている「子どもの声」を、規制対象から外す方向で検討を始めた。現在、そのために市区町村から意見を吸い上げているという。
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ネットでは、この件についてさまざまな議論が起こっている。ツイッター上では、「子どもがうるさいのは当たり前」「子どもを大事にしない社会に未来はない」など、規制を外すことに肯定的な意見が目立つ。
他方で、「子どもの声が我慢できない」という声も存在する。9月には、保育園の近くに住む70代の男性が「子どもの声がうるさい」として、保育園を運営する社会福祉法人に対して、防音設備の設置や慰謝料の支払いを求める訴えを神戸地裁に起こしたことが報道され、議論を呼んだ。
もし条例が改正され、子どもの声が「騒音ではない」ということになれば、生活にどんな影響があるのだろうか。騒音問題にくわしい村頭秀人弁護士に聞いた。
「東京都の環境確保条例136条は、『何人も』定められた規制基準を超える騒音等を発生させてはならないと定めています。
『何人も』ですから、騒音を発生させる人が誰であるかを問わず、また騒音の種類も問わず、規制対象になります。特に『子どもの声を騒音に含める』という定めがあるわけではありません」
村頭弁護士はこのように述べる。「子どもの声」が条例の規制対象から外れると、具体的にはどういったことが予想されるだろうか。
「これまでは、幼稚園や保育園などから発生する『子どもの声』について苦情が生じた場合に、自治体の公害苦情処理担当者が指導するケースがありました。しかし、騒音でなくなれば、指導は期待できなくなるでしょう」
裁判で争われるケースもあるようだが、影響はあるだろうか。
「ただちに、被害が救済されなくなるわけではありません。
ただ、裁判所は『受忍限度』――社会生活上我慢すべき限度のことです――の判断に当たって、条例の規制対象から子どもの声が除外されていることを重視すると予想されます。裁判所でも、子どもの声による騒音被害が救済されにくくなるでしょう。
このように、子どもの声を条例の規制対象から除外することによる影響は大きいと思われます」
今回の議論をどう見ているだろうか。
「報道を見る限り、『条例改正がなぜ必要なのか』という点についての説明が、不十分ではないかと感じます。
苦情の原因となる騒音の種類はさまざまです。なぜ子どもの声だけを特別視して、規制の対象外とすべきなのかという点が、十分に説明されているとは思えません。
条例改正を議論するのであれば、その正当化の根拠が十分議論されるべきであると思います」
子どもの声を除外するなら、きちんとした理由付けが必要、という意見だ。単純に「子どもはうるさいものだ」というのでは、ダメなのだろうか?
「『子どもの声』に対する苦情が紛争になるのは、保育園や幼稚園などの子どもが集まる施設が新たに設置されたことで、以前から周辺に住んでいる住民から苦情が生じるというケースが多いと思われます。
こうしたケースで、『先住・後住関係』を考慮せず、『子どもの声なのだから、近隣住民は我慢するのが当然だ』ということは、はたして妥当でしょうか。
条例改正によって、静かな環境で生活してきた住民に『子どもの声』による苦痛を我慢することを押しつけることにつながらないか、疑問を感じます」
村頭弁護士はこのように述べていた。
狭い都心で多くの人たちが共存するためには、時としてお互いの利益を調整する必要がある。ここは落ち着いて、冷静に議論を積み重ねるべきタイミングなのかもしれない。
(弁護士ドットコムニュース)
【取材協力弁護士】
村頭 秀人(むらかみ・ひでと)弁護士
平成12年弁護士登録、平成21年~24年東京弁護士会公害・環境特別委員会委員長、平成25年4月より東京都環境審議会委員。著書「騒音・低周波音・振動の紛争解決ガイドブック」(慧文社、平成23年)
事務所名:畑法律事務所
事務所URL:http://www.kougailaw.jp/