2014年10月31日 11:01 弁護士ドットコム
ラッパのマークでおなじみの「セイロガン糖衣A」を販売する大幸薬品が、キョクトウの販売する「正露丸糖衣S」のパッケージがそっくりだとして、使用の差し止めなどを求めた裁判で、最高裁は10月上旬、大幸側の上告を棄却した。これで、大幸薬品の敗訴が確定した。
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2つの商品は呼び名がほとんど変わらず、パッケージも、黄色を基調とした箱のデザインという点で似ている。箱に書かれた「飲みやすい白い錠剤」というキャッチフレーズも同じだが、裁判所は大幸薬品の訴えを退けた。
その理由はどこにあるのだろう。メディアの中には「ラッパのマークが決め手となった」と報じているところもある。だが、不正競争防止法にくわしい木村貴司弁護士に聞いてみると、それは正確とはいえないようだ。
「たしかに2つのパッケージを見比べると、似ているという印象を受ける人もいるかもしれません。しかし、最高裁が支持した大阪高裁の判決は『見た目』だけでなく『呼び名』や『イメージ』についても検討を加えています」
このように木村弁護士は説明する。
「そして、大阪高裁が判決のなかで特にていねいに比較しているのは、『ラッパのマーク』の有無ではなく、『セイロガン糖衣A』と『正露丸糖衣S』という商品名のロゴの部分です」
2つの表示は、どのように比較されたのだろうか。
「表示が似ているか、似ていないかの判断は、商品の取引の実情を考慮しながら、『見た目』『呼び名』『イメージ』を比較して検討します。この判断は、法律用語で『類否判断』と呼ばれています」
それでは「セイロガン糖衣A」と「正露丸糖衣S」の2つの区別は、どんな風に判断されたのだろうか。
「その2つは、声に出して読むと、最後のアルファベット1文字以外、全く同じです。またその2つは、ともに『糖衣錠タイプ』の家庭用胃腸薬である、というイメージを生じさせます。そのため、裁判所は、『呼び名』や『イメージ』は近いと判断しました。
しかし、裁判所は、薬局やドラッグストアでは、家庭用医薬品が声だけで取引される可能性が低いことなどを考慮し、『呼び名』をあまり重視すべきではないとしました」
呼び名やイメージは似ているが、重視されなかった。それでは何が重視されたのか?
「両者のロゴの見た目は『セイロガン』と『正露丸』で、カタカナ表記と漢字表記という明確な違いがあり、『A』と『S』の文字デザインも、大きく異なります。また、『糖衣』部分の表記方法についても違いがあると、裁判所は述べました。
そして、裁判所はこの『見た目』の違いを重視し、2つの表示が『全体として似ていない』と判断したのです」
結局、商品名ロゴの見た目の差が大きかったということだ。
「ざっと説明しましたが、比較の対象を決める際や、この類否判断においては、『商品の取引の実情』がかなり考慮されます。
今回の判決も、次のような、さまざまな『実情』を考慮したうえで、結論を下しています。
(1)対象商品が薬局で買える一般医薬品であること
(2)パッケージが家庭用医薬品でよくあるデザインであること
(3)『正露丸(セイロガン)』や『糖衣』が一般的な用語であること
(4)シリーズ商品を発売するなら通常は統一的なデザインを用いること
大阪高裁の判決文は、最高裁のウェブサイトに掲載されていますので、誰でも閲覧可能です。それを読んでいただければ、裁判所が『見た目』だけではなく、いろいろな事情を踏まえて、緻密に判断しているということが、お分かりいただけるのではないでしょうか」
木村弁護士はこのように解説していた。
(弁護士ドットコムニュース)
【取材協力弁護士】
木村 貴司(きむら・たかし)弁護士
大手電子部品メーカーで半導体エンジニアとして従事した後、弁理士として企業知財実務を経験し、弁護士となった弁理士・弁護士のWライセンサー
商標、不正競争、特許等の知的財産権の問題を中心に取り扱う
事務所名:松島・木村法律事務所
事務所URL:http://www.mk-lawfirm.jp/