近年、従業員の違法行為などをきっかけに、企業の社会的信用が一気に失墜するケースをよく目にする。そこで法令や社会的規範を守る「コンプライアンス」の活動が強化されているが、それが行き過ぎて肝心の仕事の足を引っ張ってしまう社員が問題になっているという。
思考停止したサラリーマンゾンビに迫る「ワーキングデッド~働くゾンビたち~」(BSジャパン)2014年10月23日放送では、社員の法令違反を過剰に監視する「過剰コンプライアンスデッド」と、SNSにはまって社内を震撼させる「SNSデッド」を紹介していた。
「今でしょ!」は「訴訟リスク」でNGか
新垣伸彦さん(29)が勤める某衣料品メーカー本社では、お客にファクスを送る際、送り先の番号を3人以上に確認してもらう決まりになっている。誤送信を避けるためだが、「過剰コンプライアンスデッド」の青柳課長(36)が、文書内の「いつ買うの? 今でしょ!」という宣伝コピーに目を止めた。
「パクリ。訴訟リスク」
言いがかりのような指摘だったが、課長から責め立てられた新垣さんは午後3時までに送信しなければならなかったファクスが送れずじまい。「結局間に合わず、そのセールはなくなりました」と肩を落とした。
別の日、女性社員と血液型の話をしていると、青柳課長に「女性とプライベートな話をするのはセクハラだ!」と見咎められた。仕方なく「仕事の用件以外では話さない」と決めたが、それはそれで問題が生じてしまう。
女性社員から話しかけられても、受け流す態度になってしまうため、青柳課長に「無視、知らんぷり、パワハラ」をしていると批判されるのだ。新垣さんはすっかり困惑している。
「女性社員とコミュニケーション取ると『セクハラ』、受け流すと『パワハラ』。どう対処していいか分からない」
上司が部下の元カノの写真掲載「カノジョができた」
番組では、「女性社員をちゃん付けで呼ぶ」「部下と二人きりで飲みに行く」「年賀状を出す」ことがすべて禁止されている例も挙げた。青柳課長を監視している人事担当のK・Mさん(32)は、内情をこう明かす。
「会社としては、コンプライアンス違反をしないことと、世間から叩かれないこと。この2つが何よりも大事になってくる。だからこそ、いっそう監視体制を強化しなくてはならない」
リスク対策を最優先されては、仕事にならない。キャスター役の古舘寛治は「ばかげてる!」と叫び、ゲストでネットニュース編集者の中川淳一郎さんは、こうした状況を「基本的には過剰反応。2005年の個人情報保護法の施行によって石橋を叩くようになった」と解説した。
もうひとつのゾンビ「SNSデッド」には、フェイスブックに没頭する上司に悩まされている証券会社勤務の田村悠人さん(32)が登場した。
「課長がフェイスブックにコメントしたら、必ずできるだけ速やかに返信を返さなくちゃいけない。いいね!を押さなかったりすると『オレの書き込みにいいね!が押せないのか』とすごく攻撃的になり、会社中が嫌な雰囲気になります」
某建設会社に勤める青木健太さん(38)は、上司の鈴木健一(48)のフェイスブックを見て仰天した。「最近カノジョができた」というコメントとともにアップされたのは、青木さんが撮影した自分の元カノの写真だったのだ。
「いいね!」はすべて押さないか、押しまくるしかない
上司は「ニューヨークに出張に行きました」という写真もアップしたが、それも他部署の社員のもので、自分は出張など行っていない。他人の写真を流用して、充実ぶりをアピールしているというわけだ。
SNSデッドには「自分では一切書かず、部下のSNSをすべてチェックする」というパターンも存在する。中川淳一郎さんは、この対策として「自分ではシェアもいいね!もしない人です」と宣言することだという。あるいは「おべっか使って、すべていいね!しまくる。それしかないですね」。
コンプラにもSNSにも言えることだが、人間の集まりである職場のコミュニケーションがうまくいかないと、仕事の生産性にも影響してくる。いくら上司とはいえ「親しき仲にも礼儀あり」ということを忘れないことが大事なのではないか。(ライター:okei)
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