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働きすぎの社員に休暇を取らせたら… 会社は「休業手当」を支払うの?

2014年10月27日 15:40  キャリコネニュース

キャリコネニュース

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中堅広告代理店のA社は、これまで創業メンバーを中心に、長時間労働で仕事をこなしてきた。しかし扱う事業が大きくなってきたため、社外から新しく人材を集めることにした。

人材紹介会社に多額のフィーを支払って優秀な人材を揃えたこともあり、社長のB氏は「しばらくこのメンバーで定着率をあげていきたい」と考えた。そこで社員に対し、働き方の方針を変更することを宣言した。

「これまで創業メンバーは、幸いなことに心身の健康を崩さずにきた。しかし、これ以上このような働き方を続けていては、今後はどうなるものか分からない。何より中途入社の人たちに、我々と同じような働き方を求めるのは無理な話だ。今後は残業時間の上限を設けるから、全社員がきちんと守るように」

若手社員が「気の済むまで働かせて」と反発

これに反発したのが、創業メンバーの若手だった。「裁量労働制でもいいから、気の済むまで働かせて欲しい」というのだ。

「30代前半でたくさん仕事をしておかないと、力が鈍ってしまう。私たちだけ残業時間の上限は外してくれませんか?」

B氏はこれを聞かず、有給休暇の消化率目標も7割と決めた。これに若手社員たちは態度を硬化させ、「会社都合で強制的に休みを取らせるのなら、その分の休業手当を支払うべきではないか?」と奇妙な要求を突きつけてきた。

しかし若手社員に未消化の有給休暇も残っている中で、会社がわざわざカネを払って休ませるのもおかしくはないか。そもそも会社は、労働時間や休暇にどこまで口を出せるのか。職場の法律問題に詳しいアディーレ法律事務所の岩沙好幸弁護士に聞いてみた。

――この会社の創業メンバーは、バイタリティーに溢れていますね。世間ではサービス残業を強制するブラック企業が多い中、逆に「30代前半でたくさん仕事をしておかないと、力が鈍ってしまう。私たちだけ残業時間の上限は外してくれませんか?」なんて頼もしい限りです。しかし、休業手当を要求する行為は法律的に正しいのでしょうか。

休業手当は「平均賃金の6割以上」の支給が必要

労働基準法26条は、「使用者の責に帰すべき事由による休業の場合においては、使用者は、休業期間中当該労働者に、その平均賃金の百分の六十以上の手当を支払わなければならない」と規定しており、使用者の責めに帰すべき事由による休業の場合、平均賃金の6割以上の支給を使用者に義務づけています。これを休業手当といい、労働者の生活保障を図るという観点から設けられたものです。

休業手当が支払われるためには「使用者の責めに帰すべき事由による休業」である必要がありますが、「使用者の責めに帰すべき事由」とは、地震や災害などの不可抗力による場合を除き、資材が集まらなかったために作業ができなかった場合や機械の故障により休業せざるを得なかった場合など、会社都合によるものをいいます。また「休業」とは、労働契約上労働義務ある時間について労働をなしえなくなることをいいます。

今回のケースでは、会社は残業時間の上限を設けたり、有給休暇の消化率目標を7割と決めたりしているとのことですが、これは労働義務ある時間以外については極力働かなくてよいという会社からの指示です。

ただし「休業」の対象は労働義務ある時間だけ

前述の通り、休業手当が支払われるためには、労働契約上労働義務ある時間について労働をなしえなくなることが必要となりますが、今回の会社は必要以上には働かなくてよいと言っているに過ぎないので、「使用者の責めに帰すべき事由による休業」がなく、会社は休業手当を支払う必要はありません。

会社も創業メンバーに勢いがあり過ぎて扱いに困っているようですが、高い労働意欲の社員がいることは幸せなことです。休業手当を支払う必要はありませんが、他の名目の手当を創設し、頑張っている社員には相応の還元をしてもよいかもしれませんね。

【取材協力弁護士 プロフィール】

岩沙 好幸(いわさ よしゆき)
弁護士(東京弁護士会所属)。慶應義塾大学経済学部卒業、首都大学東京法科大学院修了。弁護士法人アディーレ法律事務所。パワハラ・不当解雇・残業代未払いなどのいわゆる「労働問題」を主に扱う。動物好きでフクロウを飼育中。近著に『ブラック企業に倍返しだ! 弁護士が教える正しい闘い方』(ファミマドットコム)。『弁護士 岩沙好幸の白黒つける労働ブログ』も更新中。頼れる労働トラブル解決なら≪http://www.adire-roudou.jp/≫

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