ひとつの会社に定年まで勤めるのではなく、途中で転職する人が珍しくなくなった。順調にキャリアアップする知人を見て、「自分もいつかは」と考えながら、転職で年収が下がってしまったらどうしようと、二の足を踏む人も多いだろう。
そんなときは、転職=年収アップではなく、あえて自分から「年収ダウン」を選ぶ転職を考えてみてもいいかもしれない。「モバツイ」の開発者で、想創社代表取締役社長の藤川真一(えふしん)氏も、「ステップアップという感覚でなく、経験を買いに行く」という転職もあると指摘している。
同じ投資なら「進学」より「転職」を選ぶ
えふしん氏はこの考え方について、Yahoo!個人に「転職は経験を買いに行く人生のタイミング」というエントリーでまとめている。彼はFA装置メーカー、Web制作のベンチャーを経て、2006年にpaperboy&co.(現GMOペパボ)へ転職した。
ベンチャー時代には、当時の実力よりも「もらいすぎかな」と思っていたため、一時は仕事をしながら大学院で学ぶことを考えた。しかし、もっと別の方法で納得方法があるのではないかという考えに至る。
「その会社でいただいていた評価とは、その会社にいるからこその相対評価。転職すれば、間違いなく給料が下がるのはわかっていたので、同じくお金を投資するなら、転職するのもありではないか?と」
そこでわざわざ年収を下げる転職に踏み切り、「沢山の経験」と「周りの刺激」を受けることを選んだ。その結果、数々の賞を受け、160万人を超えるユーザーを集めた「モバツイ」を開発することができた。えふしん氏は、この転職の効果について、こう振り返っている。
「人生は間違いなく変わったわけだから、費用対効果は間違いなく高かった」
このあたりは、「給料がインフレを起こしている」と感じて転職を繰り返した現LINE社長の森川亮氏にも似ている。この投稿には、転職経験者から「この感覚は確かにあったなー」「経験もそうだし、ワクワクとかも買いに行く要素に入ると思う」とツイッターなどで共感する声が多くあがっている。
「自腹を切って泥水を飲みに行く」という感覚
自分に売れるだけのスキルや経験がない場合について、えふしん氏は「経験を買いに行くフェーズ」という表現を使っている。転職を「自分を売る」としか考えていない人には、新鮮な視点だろう。自分なりキャリアビジョンが明確にあるが、それに必要な経験がない場合には、こちらの方がフィットしそうだ。
この記事を見た20代後半のAさんも、藤川氏の投稿に「すごく納得できた」と明かす。1社目で編集プロダクションに入社したが、3年経つと対外折衝力や企画力に不安を感じ、「このままで良いのか」と思うようになったという。
「そこで未経験だった営業職に転職し、プレゼン資料などを大量に作らされる経験をしました。慣れないので最初は苦戦しましたが、そこで3年勤めたことで、現在は編集と営業両方の経験が活かせる仕事に就け、自分の経験を高く売ることができてホッとしています」
現在40代の男性Bさんも、大手出版社から30代の終わりにIT企業に転職。3割ほど年収が下がったが、タイミングよく経験を積むことで40代半ばで再び転職し、要職に就くことができた。
「もし転職していなかったら、50代で失業していたかもしれない。とはいえ、何の不自由もない環境を変えて、新しい経験をするのは本当にラクじゃない。若い人たちから相談されたときには、『転職とは自腹を切って泥水を飲みに行くことだ』と言っています」
えふしん氏が強調する「投資意識」
しばらく泥水を飲めば、その経験が生きて中年になって美酒を飲むことができるというわけか。もちろん転職のリスクがあり、泥水から脱却できる保証はないが、そのままでは泥水さえ飲めなくなるおそれもある。
この点について、藤川氏は「経験を買うための投資意識と回収への努力は意識的にやって欲しいかな」と綴っている。リスクを負うことで、初めてリターンが得られる。転職にも「投資」という感覚が必要なようだ。
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