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「ノーベル物理学賞の中村教授は日本人だと思う?」 米国の大学生たちに聞いてみた

2014年10月20日 15:51  弁護士ドットコム

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実用性の高い青色発光ダイオード(LED)の開発で、米カリフォルニア大サンタバーバラ校の中村修二教授が「ノーベル物理学賞」を受賞した。10月7日の発表の際、ネットで注目を集めたのは、中村教授が「American citizen」を取得していたことだ。新聞の取材に対して「米国の大学で軍に関連する研究を行うために米国籍を取得した」という彼だが、かねてから日本における研究環境に批判的だったこともあり、「中村教授は日本人か米国人か」との議論がネットで白熱した。


【関連記事:ノーベル物理学賞・中村修二教授は「日本人」か「アメリカ人」か――ネットで大騒動に】



日本の国籍法は、原則として「二重国籍」を認めていないため、米国籍を取得すれば日本国籍を喪失することになる。ただ、中村教授が日本で生まれ育ち、青色LEDの開発も日本の企業で実現したことから、「中村教授は日本人だ」と言う人も少なくない。では、米国の大学生たちはどう考えているのだろうか。米国東部ノースカロライナ州にあるアパラチア州立大学の学生らに、今回の件について意見を聞いてみた。(ケイヒル エミ/ノースカロライナ州)



●「中村教授は日本人」派


「中村教授は日本人である」と断言したのは、アイリッシュ系アメリカ人のコリーン・マッキアーニーさん。「私は個人をどこに住んでいるかという点よりも、その人の文化的な背景や価値観に基づいて定義するので、彼は日本人だと思う」とのことだ。



コリーンさんと同様の見解を示したのは、高校生の頃に米国へ移住し、現在は米国の永住権も持つ韓国籍のサンア・リーさん。「書類上は米国人だと思うけれど、彼が本当は何人か、と聞かれたら日本人なんじゃないかな」と意見を述べた。



このように「中村教授は日本人である」としたのは、総じて、一つの国にルーツをもつ学生だといえる。どうやら、本人の経験が回答に影響するようだ。



●「日本人でもあり、米国人でもある」派


学生たちからもっとも多くあがったのは、「中村博士は日本人でもあり、米国人でもある」という意見だった。米国ロサンゼルス出身のハヴィヴ・アブラハミさんは、ペルー人の父とグアム出身の母を持つ。そんな彼は、「僕自身はアメリカ人だと自己認識しているけれども、その他の国や文化の一員だとも認識している。だから、彼の場合も同じなんじゃないかな」と、自らの経験に重ねてコメントした。



メキシコ出身の両親を持ち、米国東海岸の各地で育ったというイヴァン・マガナさんも「両方だ」とのことだ。「ここに来ることで、元の自分を失ってしまうわけではない。でも、米国に来ることによって、なにか新しく得るものもあると思う」と、移住先の文化や価値観を吸収することのポジティブな側面を示唆した。



米国政府による2010年の統計によれば、米国の人口の12パーセントが移民一世であり、11パーセントは、親のうち少なくとも一人が他国出身である米国生まれの市民だという。米国の若者たちからすれば、何カ国にもまたがるアイデンティティを持つことは、自然なことなのかもしれない。



●「私のアイデンティティは私が決める」


異色の回答をよせてくれたのは、ドイツ生まれのガーナ系アメリカ人、ジェイ・アモアさん。複数の国家にルーツを持つ彼女は、「本人がアメリカ人だと言うのであれば、彼はアメリカ人だよ」と自己認識の重要性を強調する。彼女自身、あるときにはガーナとのつながりを、あるときにはアフリカ系アメリカ人としてのアイデンティティを否定された経験があるそうで、「私は、これら(自身のルーツ)すべてが『私という人間』を形作っているのだと理解している。他の人の基準で認識されたくないわけ、わかる?」と話した。



グローバル化が進む中、ジェイさんのように、国籍や他者の認識に縛られない発想をする人が増えていくのだろうか。



●「二重国籍」を認めない日本の制度への批判


具体的な回答に差はあれども、どの学生にも共通していたのは、自身の文化やルーツを大切にする態度だった。意外にも、中村教授を「米国人」に限定する答えはみられなかった。これらの回答は、「人種のサラダボウル」と言われるように、多様な文化的背景を持った人々がおたがいの違いを尊重しながら共存する、米国社会のあり方を反映しているのかもしれない。



加えて、もう一つ共通していたのは、新たに他国の国籍を取得するときに日本国籍を失わざるを得ない、日本の現行法への批判である。中村教授を「日本人」と断言していたコリーンさんも、現行法を「ばからしい」と一刀両断したように、学生たちの間では二重国籍への抵抗感はほとんどないようだった。



実は、今回の中村教授のようにアメリカ国籍に帰化した「移民一世」がノーベル賞を受賞するのは、珍しいことではない。ジョージ・メイソン大学の調査によれば、1901年から2013年までにノーベル賞を受け取った米国籍保持者のうち、移民一世が30.7パーセントを占めているという。日本出身の米国籍受賞者も、中村教授が初めてではない。2008年にノーベル物理学賞を受賞した南部陽一郎教授がいる。



中村教授の国籍よりも、優秀な人材を引き寄せ続ける米国の環境や政策に関心を持ってしまったのは、筆者だけだろうか。


【著者プロフィール】


ケイヒル エミ


日本生まれ日本育ちの米韓ハーフ。社会問題、NPO、ジェンダーや海外エンタメなど、執筆分野は多岐にわたる。日本語・英語はネイティブレベル、韓国語はビジネスレベル、中国語は中級程度。現在米国の某大学にて公共政策を勉強中。


(弁護士ドットコムニュース)