2014年10月18日 10:01 弁護士ドットコム
仕事をしていて、会社の備品を壊してしまったという経験はないだろうか。弁護士ドットコムの法律相談コーナーには、会社のデジカメを仕事中に落として壊してしまったという悩みが寄せられている。
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投稿によると、この人は今年5月、会社の備品のデジカメを落として壊してしまったそうだ。さらに間が悪いことに、7月終わりにつまづいて転倒し、もう1台あった備品のデジカメも壊してしまったという。
会社からは「危機管理責任は会社にないので全額弁償してください」といわれてしまったそうだ。修理見積もりは、1台につき2万8000円だという。
相談者は、仕事に使っていたカメラなので、自分が全額弁償するのはおかしくないか、と疑問を感じているようだ。どうなのだろうか。労働問題にくわしい大山弘通弁護士に話を聞いた。
「自分の失敗でカメラを壊してしまったとしても、それが普通に働いていれば誰にでも起きることのある、ささいな失敗であれば、弁償する必要はありません」
自分で壊したのだから、自分が弁償するという理屈にはならないのだろうか。
「いくら気をつけていても、一般の社会生活を送る中で、何らかのミスは生じます。
労働者を雇う人(使用者)は、日常にあるそうしたリスクについて、承知したうえで経営をすべきです。こうしたリスクは保険等で管理ができるものですし、使用者は人を雇用することでリスク以上の利益を上げています。
こうした理由から、相談のような事例であれば、従業員が壊した備品を弁償する必要はありません」
では、従業員が会社の備品の扱いに注意する必要は全くない?
「そうではありません。
ささいなミスではなく、たとえば従業員がわざと壊したとか、普通はあり得ない重大な不注意によって壊したという場合には、弁償しなければなりません。
たとえば、カメラを投げつけたとか、ふざけて振り回していて落としてしまったようなケースでは、弁償する必要があるでしょう」
会社の備品を壊したことで、実際に弁償しろと命じられたケースは過去にあるのだろうか。
「たとえば、タンクローリーを運転中、前方の車に追突事故を起こした従業員が、会社から修理代などを求められたという裁判がありました。
このケースで注目すべき点は、従業員に対する請求が、使用者が実際に被った損害の4分の1に制限されたことです(最高裁の昭和51年7月8日の判決)」
そんな重大事故であっても、弁償すべきとされたのは、被害総額の4分の1だけ・・・ということは、よほどのケースでもなければ、従業員が全額弁償しろという結論にはならなさそうだ。
大山弁護士は「ただし、弁償が必要なくとも、会社から懲戒処分を受けることはあり得ます。相談のケースであれば、けん責といった軽い注意程度でしょうが、積み重なると重い処分がくだされる可能性があります」と指摘していた。
(弁護士ドットコムニュース)
【取材協力弁護士】
大山 弘通(おおやま・ひろみつ)弁護士
労働者側の労働事件を特に重点的に取り扱っている。労働組合を通じての依頼も数多く、もちろん個人からの相談も多い。労働事件は、早期の処理が大事であり、早い段階からの相談が特に望まれる。大阪労働者弁護団に所属。
事務所名:大山・中島法律事務所
事務所URL:http://on-law.jp/