2014年10月17日 16:01 弁護士ドットコム
JR北海道の男性運転士(23)が、特急列車の運転中にフェイスブックに投稿したとして、10月8日に懲戒解雇された。同社によると、この運転士は9月下旬、JR根室線を走る特急「スーパーおおぞら2号」を運転しながら、私物のスマートフォンでフェイスブックに書き込んだという。
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不祥事があいついだJR北海道では今年4月から、就業規則に「故意に鉄道の安全運行を阻害する行為をおこなった場合は厳しく懲戒する」というルールを追加していた。そのルールが初めて適用された。
今回は、規則の言葉通り「厳しい懲戒」が下されたわけだが、ネットでは「アホすぎるが、解雇まで発展するのか」といった意見も出ている。たしかに懲戒解雇は、懲戒処分の中で一番重いものだとされる。運転士がやったことと受けた処分とのバランスを、労働問題にくわしい弁護士はどう見るだろうか。今井俊裕弁護士に聞いた。
「企業が従業員に『懲戒処分』を行う場合に、直接的な根拠となるのは『就業規則』です。
この就業規則には通常、こういうことをしたら懲戒処分の対象としますとか、こんな時にはこういった処分が行われますといった決まりが書いてあります。また、処分をする前に弁明の機会を与えるといった、懲戒の手続きも規定されていることも多いです。
そして、懲戒処分の中で、最も重い処分が『懲戒解雇』です」
今回は、その最も重い処分が下されたわけだ。処分の重さは、どうやって決まるのだろうか?
「懲戒の対象になるような行為に対してどんな処分をするかは、基本的に、就業規則で規定された範囲内で、使用者(企業)が自由裁量で選ぶことができます。
しかし、その処分に客観的な合理性がなく、社会通念上相当であると認められない場合は、権利の濫用として無効となります
これが原則的な考え方です」
合理的かどうかと、社会常識に照らしてOKかどうかがポイントだということだが、判断の分かれ目はどこにあるのだろうか?
「実際の判断はケースバイケースで、具体的にどんなことをしたのか、その行為の性質や、その他の事情を見ていく必要があります」
今回は重すぎないだろうか?
「もし、同様の行為で懲戒処分をうけたことがこれまでに一度もなく、また他の事由によっても処分されたことがないなら、今回のことで即、懲戒解雇までいくのは、厳しすぎるとの意見があるかもしれません。
しかし、運転士は、乗客と列車運行の安全を、直接、担っている存在です。多くの人の運命を握っているといっても過言ではありません。
運行中にフェイスブックに投稿をしていれば、その間の安全管理を怠っていることになります。惰性や気の緩みによって、それが習慣化すれば、由々しき事態といえます。
『歩きスマホ』が社会的に問題視されていることなども踏まえて考えると、今回の処分が一概に厳しすぎるとまでは判断できないでしょう」
今井弁護士はこのように指摘していた。
たしかに駅などで『歩きスマホ』をしている人を見れば、その危なっかしさは一目瞭然だ。多くの人命を預かる列車運転士の行為として、許容できるラインを明らかに越えていると言えそうだ。こうした事態を防ぐためには、運転士のモラル向上に加えて、鉄道会社としての対策も求められることになりそうだ。
(弁護士ドットコムニュース)
【取材協力弁護士】
今井 俊裕(いまい・としひろ)弁護士
平成11年弁護士登録。労働(使用者側)、会社法、不動産関連事件の取扱い多数。具体的かつ戦略的な方針提示がモットー。行政における個人情報保護運営審議会、開発審査会の委員を歴任。
事務所名:今井法律事務所
事務所URL:http://www.imai-lawoffice.jp/index.html