2014年シーズンのGP2シリーズにカンポス・レーシングから今季から参戦している佐藤公哉。ロシア、ソチで開催された第19戦/第20戦では上々の滑りだしをみせたが、レース1では追突されたりで13位。しかしレース2では待望の7位入賞を果たした。レース後、マネジメントチーム兼レーシングチームであるユーロノヴァ・レーシングのオーナー、“タキ井上”こと井上隆智穂から、公哉の電話に着信があった。
●ソチではイスタンブールに泊まってました
井上隆智穂(以下タキ):もしもーし? 公哉くん? もしもーし?
佐藤公哉(以下公哉):あ、お疲れさまです。公哉です。
タキ:ソチ、お疲れさまでした。
公哉:ありがとうございます。
タキ:で、どうだった? ソチのナターシャは?
公哉:いきなりそっちの話ですか?
タキ:あ! 公哉く~ん、シャレがうまいね!
公哉:……(汗)。
タキ:違うの? でも、街中ナターシャだらけだったでしょ?
公哉:うーん。ロシアの女性はなんか怖いですね。
タキ:そう? 出会い系はあったの?
公哉:ありませんよ。そもそも言葉が通じません。
タキ:残念!
公哉:……(汗)。
タキ:ところでホテルはどうだった?
公哉:冬季オリンピックで使った選手村の払い下げのようでした。一棟だけまともなホテルの建物があって、その敷地内に10棟くらい合宿所のような建物があって、僕らはそのうちの一棟を割り当てられました。それぞれ『ニューヨーク』、『シドニー』、『東京』、『北京』、『ロンドン』、『アテネ』といった世界各国の大都市の名前が付いていて、僕らは『イスタンブール』に泊まりました。
タキ:食事は?
公哉:一棟だけまともなホテルの建物の、中のビュッフェで朝食は摂りました。メニューはそれなりに充実していました。昼食は通常どおりGP2パドック内のテントでしたが、ケータリングサービスがいつもと違って現地の会社なのか、これ以上ないというくらいにダメダメでした。
タキ:……(汗)。夕飯は?
公哉:黒田さん(編注:黒田吉隆。AUTO GPドライバー)がいろいろやってくれてありがたかったですね。レンタカーの運転、レストランの手配、もちろんサーキットの現場でも助けてもらいました。
●はっきり言って冗談じゃない!
タキ:なるほど。ソチではあまり困らなかったと?
公哉:うーん。セキュリティの厳しさには閉口しましたね。毎朝、サーキットのメインゲートでは空港並みのセキュリティチェックです。しかも、街中と道路沿いには警官や軍人の姿が半端なく多かったですね。
タキ:来場したプーチン大統領、メドベージェフ首相の影響だろうな。で、モメ事はなかった?
公哉:水曜日だったか木曜日だったか、ソチのレストランへ行った帰り、警官にクルマを止められて職務質問を受けましたよ。
タキ:どうして?
公哉:よく分かりません。でも、警官は英語をしゃべれない。黒田さんが英語でいろいろ話しかけていたら、「グッバイ、マイフレンド」と相手の警官が言って無罪放免。「おい、いつから俺たちはお前の友達になったんだよ!」とツッコミたくなりました。
タキ:……(汗)。で、レースはどうだった?
公哉:ようやくそっちの話ですか?
タキ:うまいね~。
公哉:……(汗)。今回は持ち込みのクルマが良かったですね。フロントはやや硬め、リアはやや柔らかめで、さすがにハンガロリンクほどではありませんでしたが、走り始めからグリップを感じました。
タキ:で、練習走行は6番手、予選は7番手。上々だったよね!
公哉:はい。ただ、決勝レース1で結果を出せなかったのは悔しいし、はっきり言って冗談じゃないと思いましたよ。
●翼端板だけでも胃が痛くなるのに……
タキ:どういうこと?
公哉:だって、スタート後のターン2では何十台ものクルマがショートカットして順位を上げたのに、実際にペナルティを科されたのはフェリペ・ナスールだけじゃないですか!?
タキ:何十台……ですか……。
公哉:僕はそのあおりを受けて順位を下げました。しかも、セーフティカー導入中、僕は最終コーナーで追突されてスピンして、ほぼ最後尾まで順位を下げてしまいました。僕に追突してきたあのドライバーに、なぜペナルティが科されないのか? こんなレースやっていられないと、つくづく思いましたよ!
タキ:……(汗)。
公哉:それに、彼らのほとんどが「接触上等!」という勢いで突っ込んでくる。「ぶつかられたくないなら避けろよ!」という感じです。このGP2、まともな自動車レースじゃないですよ。そりゃあ彼らは、自動車メーカーやF1チームの育成ドライバーあるいは貴族サマや大金持ちサマだから、いくらクルマを壊しても痛くもかゆくもないでしょう。でも、僕はフロントウイング翼端板が少し傷ついただけで胃が痛くなるし、フロントウイング全交換ともなったら、それこそ気を失うくらいの庶民ですよ!
タキ:なるほど……。でも、決勝レース2では7位入賞。良かったよね。
公哉:うーん。正直、ポイント獲得までこんなに苦労するとは思ってもいませんでしたし、この順位で満足していてはダメでしょう。唯一の救いは、グリップのあるクルマを手にできて最終大会に向けて希望が持てたことと、今回はチームの雰囲気がすごく良かったことですね。なぜか、エンジニアもメカニックもすごくリラックスしていた。不思議なもんです。
タキ:僕とビンチェ(注釈:ビンチェンツォ・ソスピリ。ユーロノヴァ社長)が行かなかったのが良かったという意味かな?
公哉:いえいえ、そんなこと言っていま……いや、そうかもしれません。
タキ:……(汗)。
公哉:ということで最終大会のアブダビは、黒田さんと僕とチームとで精一杯戦ってきます! タキさんにはぜひ、後方支援をよろしくお願い致します!
タキ:また出禁かよ……(汗)。
(Kojiro Ishii)