2014年10月16日 11:31 弁護士ドットコム
戦後最悪の火山災害となった御嶽山の噴火から半月が経過した。死者の数は10月14日時点で56人にのぼっている。まだ安否不明の人たちがいるが、台風など天候の影響もあり、ただでさえ困難な山頂付近での捜索はさらに難航している。
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その御嶽山は現在、「入山規制」の対象となっている。気象庁は噴火直後に規制を行ったが、ツイッターなどでは、気象庁が噴火前の9月25日に発表した「週間火山活動概況」などを根拠にして、「噴火前に入山規制をかけることはできなかったのか?」と、疑問の声が上がっている。
この「活動概況」によると、9月10日ごろから御嶽山の山頂付近を震源とする火山性の地震が増加し、11日には85回の火山性地震が観測されていた。専門家でつくる火山噴火予知連絡会は、今回の噴火を「予見できなかった」と表明しているが、その説明に納得できない人たちは、こうした「前兆」があったのだから、警戒レベルを上げておけばよかったのではないかと主張しているのだ。
たとえば、今回のような自然災害のケースで、「入山規制を怠った」と主張して、法的に国や自治体の責任を問える可能性はあるだろうか。伊藤隆啓弁護士に聞いた。
「入山規制を行う権限は、国(気象庁)ではなく、火山のある山域を所管する市町村長や都道府県知事にあります(災害対策基本法60条)。
ただ、市町村長等の判断は、実際のところ、気象庁が発表した警戒レベルに基づいて行われることが普通でしょう。
したがって、気象庁による火山活動の監視や火山防災情報の発表は、極めて重要といえます」
入山規制を決めるのは国ではないが、国(気象庁)の発表が判断に大きな影響を与えているとすれば、国にも何らかの責任があると言えないだろうか?
「たしかに、今回は、噴火する前に火山性地震が発生していたため、噴火の『前兆』が全くなかったとは断言できない場合といえます。
そのため、本当は気象庁が警戒レベルを引き上げるべきだったのに、これをしなかったという『不作為』があり、死傷者が出てしまったことについて『国家賠償責任』が問われるべきではないか、といった声が上がるのも理解できます。
しかし、そもそも噴火の予知は、地震の予知よりも難しいと言われています。今回は、『前兆』といえるものはあっても、いったん火山活動が落ち着き、噴火直前まで他の観測項目に変化はありませんでした。
そうすると、警戒レベルを引き上げなかった気象庁の判断について、法的に問題があるとまではいえないでしょう」
予測が難しい自然災害への対応について、国の責任を「法的に」追及するのは、かなりハードルが高いようだ。火山噴火は、なぜ予知が困難なのだろうか?
「日本は、世界の約1割にも相当する110の活火山があります。国は、そのうち今後100年程度の間に噴火するおそれがある47の山について、24時間監視しています。しかし、観測機器の数は山によって違いがあり、それぞれ観測の精度に差が生じざるを得ないことは仕方ありません。
また、本来であれば、火山や山麓の町について詳しい研究者が常駐し、最も現場に近い場所にいる市町村長と密に連携して、入山規制などの対応をすることが理想です。しかし、研究者が現場に常駐している例は稀でしょう。
現在のところ、不十分な観測態勢や、火山専門家の人材不足といった問題が、火山噴火の予知をより困難にさせています」
それでは、将来このような悲劇を繰り返さないために、今後どのような対策が考えられるだろうか?
「今後は、観測態勢の強化と人材育成を急ぐべきでしょう。また、これまでの観測や情報提供のあり方についても再検証し、改善する必要があります。
登山者に向けた具体的な対策としては、それぞれの火山の防災情報について、入山者がスマートフォンなどでタイムリーに取得できるようなサービスを、気象庁が提供することなどが挙げられるでしょう。
入山者が噴火の前兆と思われる情報を事前に知ることができれば、自己の判断で入山を控えるといったことも可能となるからです」
伊藤弁護士は、「国、地方自治体、火山専門家、住民、登山関係者のすべてが、今回の未曾有の災害を教訓として、次なる災害に備えるための一歩を踏み出すべきだと思います」と締めくくっていた。
(弁護士ドットコムニュース)
【取材協力弁護士】
伊藤 隆啓(いとう・たかひろ)弁護士
弁護士レオーネ北浜法律事務所 代表弁護士
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