ソフトタイヤでスタートしたチームメイトのマーカス・エリクソンに対して、ミディアムでスタートした小林可夢偉は、1周1秒以上もあるソフトとミディアムのラップタイム差をものともせず、チームメイトに食い下がりながら、順調に周回を重ねていた。そして、21周目に「ピットインしろ」と命じられる。
可夢偉は「通常のストップ」だと思って入るが、チームは可夢偉のマシンをガレージに入れた。理由はチームのトップマネージメントが、レースを止めろと指示したからである。
その理由をチームは、リリースに次のような可夢偉のコメントを掲載して説明している。
「残念な結果となりました。無線でピットインの指示があったときは、通常のピットストップだと思っていました。でも、その後リタイアしなければならないと告げられました。最初はリタイアしないといけない理由もわからず驚きました。その後、チームのテレメトリーからブレーキがオーバーヒートしていることがはっきりとわかりました。このようなレースの終わり方になったことは残念ですが、今日はどうすることもできませんでした」
しかし、このリリースが出る前、可夢偉は各国のテレビカメラに向かって、こんなコメントをしていた。
「トラブルか何かかなと思ったら実はそうではなく、マイレージをセーブするために止めたということらしいです」
つまり、チームの発表にある「ブレーキトラブル」というのは正しい情報として信用することが少なくとも筆者にはできないのである。もしブレーキがオーバーヒートしているのであれば、その予兆をドライバーが感じるはずだが、可夢偉は「(ブレーキ)トラブルの予兆はまったくなかった」と言う。
そんな決定を下したチームに、可夢偉は納得していない。
「だったら、そもそもスタートさせるなよっていう話じゃないですか。まともなクルマじゃないのに、まともに走らせてくれない。なんでロシアまで来たんだろう。来たのは、失敗だったんじゃないかとさえ思う。サーキット自体は中速コーナーがあって、面白かっただけに残念です」
可夢偉の心中に「カムイ・サポート」に対する感謝の気持ちがあるのはよくわかる。しかし、このような待遇で可夢偉が苦しみながらレースする姿をファンは望んでいないのではないだろうか。次戦アメリカGP、可夢偉がどんな結論を出そうと、ここまで16戦よくやったことは間違いない。
(尾張正博)