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『F1速報』のロシアGP決勝分析:難しいタイヤ戦略。ボッタスには2位のチャンスもあった

2014年10月13日 07:30  AUTOSPORT web

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速さも、タイヤ戦略も完璧だったハミルトン。コンストラクターズタイトル獲得に花を添える勝利だ
勝敗を分ける最大の要因となったのは、今回もやはりタイヤでした。しかし、今までのレースが“いかにタイヤをもたせるか”だったのとは、ちょっと違う印象を受けました。検証してみましょう。

 初開催となるソチ・オートドロームは、路面がスムーズながらもグリップが高く、アップダウンが無くて、タイヤを休ませることができる長い直線がある……という特性を持つサーキットです。さらに新装サーキット特有の現象である、路面に油が浮くというようなこともなく、タイヤが横滑りしにくいということも、指摘されていました。つまりこれらの条件を総合すると、“デグラデーションが発生しにくく、摩耗度合いも少ない”サーキットである、ということが言えます。

 実際金曜日には、「どこがピークなのか分からないほど、タイヤがタレないです」と言っていたエンジニアもいました。確かにフリー走行等でのロングランを見ても、デグラデーションの傾向はほとんど見られません。そのため、現場では多くの人が「1ストップが主流になるだろう」と予想していました。

 とはいえ、特にソフトタイヤについては、デグラデーションがまったく出ないというわけではなかったようです。これは、決勝序盤のバルテリ・ボッタスのラップタイム推移に顕著に現れています。

 スタート直後、先頭を行くメルセデスAMGのルイス・ハミルトンと同ペースで走行していたボッタス。このまま終盤まで、激しい優勝争いが続くと思われました。しかし、9周目をピークにボッタスのペースが落ちだし、当初1分43秒台での走行だったものが、23周目には1分45秒台まで下落してしまいます。一方のハミルトンは、1分43秒台のペースを持続。結果、当初は2秒程度だったふたりの差は、ボッタスがピットインする前の周には15秒台まで広がっていました。この時点で、ウイリアムズの勝機は潰えてしまいます。この状況を見て、ウイリアムズの白幡メカニックは、「勝てるかもと思ったけど、やっぱりメルセデスは強いねぇ」と、実に残念そうに語っていました。

 ソフトタイヤは、マシンの特性によってタレの速度が大きく異なる、それがこの2台のペース推移に大きく現れています。ボッタス曰く「リヤが突然ダメになった」そうです。つまり、ウイリアムズのクルマは、メルセデスAMGに比べて、タイヤに厳しいクルマだと言うことができるかも知れません。

 一方今回持ち込まれたタイヤのうち硬い方、ミディアムタイヤについては、ソフトタイヤとは逆に“いかにタイヤを使い切るか”ということが重要だったようです。驚いたのはニコ・ロズベルグが1周目にピットに入ってミディアムタイヤに換えた後、チェッカーまでの52周をそのまま走り切ってしまったこと。ロズベルグも「デグラデーションが出てくるだろうと思ったが、すぐに落ち着いた」と語っているとおり、驚くほど長持ちしてしまいました。なんとロズベルグは、このタイヤの51周目にファステストタイムを記録しています。

 フリー走行では、さすがにそこまで長い連続走行はできません。せいぜい20周程度ではないでしょうか。そのため、ミディアムタイヤの本来の寿命を、正確に確認できていた人は、いなかったはずです。52周走ったロズベルグ陣営も、もう一度タイヤ交換をすることを覚悟して走らせていたはずですが、想像以上に長持ちしたためにそのままフィニッシュを迎え、しかもボッタスから2位の座を奪うことにも繋がりました。

 ただボッタスは、ロズベルグに抗う術もあったように思います。それは、タイヤ交換のタイミングをもう少し早くすること、でした。

 第1スティントの終盤、前記したように、ボッタスのペースは極端に落ちます。ここまで落ちる前、少なくともペースが1分44秒台の間にソフトからミディアムに交換していれば、ボッタスはロズベルグの前でフィニッシュできていた可能性もあります。

 ボッタスはミディアムタイヤでの走り出し、タイヤの発熱に苦しんだのか、なかなかペースを上げられずにいました。その間にロズベルグの接近、そしてオーバーテイクを許してしまい、順位を明け渡す結果となってしまいます。38周目にボッタスのラップタイムは1分42秒台に入り、その後ますますペースは上がって、終盤には最速ラップも記録。おそらくボッタスは、タイヤの性能を余したままフィニッシュを迎えたはずで、もう少し早くミディアムに交換していれば、ロズベルグとの最終的な差、3.768秒を埋めることができた可能性もあります。まぁ、これはあくまで結果論ですが、少なくともソフトタイヤを引っ張りすぎた感は否めません。

 とはいえ、52周もデグラデーションを発生させず走り切れてしまうタイヤは、少々コンサバな選択すぎた気もします。初開催サーキットなので仕方ない部分もあるでしょうが、ソフトとスーパーソフトの組み合わせでも、十分レースができ、戦略の面白味も出たと考えられます。

 ところで、メルセデスAMGとウイリアムズ以外にも特筆すべきチームがあります。それはマクラーレンです。昨日の「F速予想」でも書きましたが、マクラーレンは順調に開発が進んでいて、タイヤを上手く使えるようになってきているそうです。ロシアGPの決勝でも、確かにかなり良いペースで走行し、現時点ではメルセデスAMG、ウイリアムズに次ぐ3番手チームになっているように見えます。ジェンソン・バトンもレース後、マシンの進化に手応えを感じている旨のコメントを発信しています。今後が楽しみなマクラーレン、と申し上げておきましょう。