2014年10月12日 11:21 弁護士ドットコム
なぜネットメディアは国会記者会館を使えないのか——。東京・永田町の首相官邸前に建つ国会記者会館は、新聞やテレビの記者たちが国会や政府の取材の拠点として利用している4階建てのビルだ。その建物の「利用権」をめぐって「メディア対メディア」の訴訟が起きている。
【関連記事:なぜネットメディアは国会記者会館を使えないのか?~国会記者会事務局長に聞く(上)】
安倍内閣が集団的自衛権の行使容認を閣議決定した7月1日、弁護士ドットコムニュースは、首相官邸前のデモを撮影するため、この国会記者会館の屋上にのぼろうとしたが、会館を管理する「国会記者会」に断られた。そのときの模様を報じた記事は、ネットユーザーやメディア関係者の間で大きな反響を呼んだ。(なぜネットメディアは国会記者会館を使えないのか?~国会記者会事務局長に聞く(上)、(下))。
だが、国会記者会館の利用をめぐるトラブルは、これが初めてではない。2年前の2012年9月、デモの撮影をしようと屋上の使用を申請したが断られたインターネットメディア「OurPlanet-TV」が、国会記者会と国を相手取って、220万円の損害賠償を求める裁判を起こしたのだ。「報道の自由」がテーマとなった裁判は今年6月30日に結審し、10月14日、いよいよ判決が言い渡される。
旧来のマスメディアと新興のネットメディアの対立構図となったこの訴訟をどうとらえればいいのか。OurPlanet-TVの白石草(はじめ)代表と、原告代理人の井桁大介弁護士に聞いた。
なぜ屋上にのぼろうとしたのか。白石さんは次のように語る。
「私たちは、アメリカ同時多発テロ事件後の2001年10月から活動をしていて、以前からデモの取材を重視してきました。デモは、人々が声を上げるプリミティブ(原始的)なものです。デモウォッチャーとして、難民問題やG8サミット反対など、さまざまなデモを10年以上取材してきました。その中でも、2012年に起きた官邸前の『反原発デモ』はこれまでにないもので、想像以上の広がりを見せました。その光景を俯瞰して、撮影したかったのです」
首相官邸に向かい合って建つ国会記者会館の屋上は、官邸前の道路を見下ろすことができるため、デモを撮影するには絶好の場所だった。実際、国会記者会の会員である新聞やテレビのカメラマンは屋上から撮影を行っている。
しかし、デモが大きな盛り上がりを見せていた2012年7月6日、白石さんたちが会館の屋上で撮影しようとしたところ、国会記者会に加盟していないことを理由に、事務局に拒否されてしまった。そこで、知人の弁護士たちの後押しを得て、司法に訴えた。国と記者会に「屋上の使用許可」を命じることを求めて、東京地裁に仮処分申請を行ったのだ。
だが、その仮処分申請は却下。さらに、衆議院事務局にも行政処分の申請を行ったが、却下されたため、提訴に踏み切った。
白石さんは「最初はどこに権限があるのかも分からなかった。国会記者会は謎だらけでした」と振り返る。国会記者会館は1969年に国有地に建てられた国有財産で、衆議院が所管している。そして、全国153社の新聞・通信社、テレビ、ラジオ各社が加盟する任意団体の「国会記者会」が管理・運営を委託されている。
永田町のど真ん中にある超一等地だが、会館を利用する各メディアは土地代や建物代を国に払っていないという。国会記者会の佐賀年之事務局長(共同通信社出身)は、7月の弁護士ドットコムの取材に対し、特権を享受していることについて「否定しない」と語っており、既存メディアの利権となっていることを認めている。
裁判の意義はどこにあるのか。白石さんは「この問題の根本は、国ではありません。記者会が私たちを入れないのです。メディアがメディアを阻害しています。(権力に)飼いならされている人たちがいて、そうではない人たちを排除する構造があります」と指摘する。
この裁判が結審した今年6月30日。その日はちょうど、集団的自衛権の行使容認の閣議決定の前日で、多くの人たちがデモのために官邸前に集まっていた。道があふれかえるほど、人が集まり、行使容認に反対の声をあげていた。
白石さんは、記者会のガードが甘かったこともあり、ほかのジャーナリストたちと一緒に屋上にのぼった。眼下に広がるデモの光景。その様子をネットで生中継した。「これを伝えさせないというのはありえない」。改めてそう実感した。やってきた記者会の事務局のスタッフと押し問答になったが、佐賀事務局長に「撮らなくてどうするんだ」と訴えた。
OurPlanet-TVが国会記者会館の屋上から撮影した動画はこちら(1分45秒~)
https://youtube.owacon.moe/watch?v=69shkDYn20Y
白石さんは「今回の問題を契機にして、国民の知る権利に応える方向に向かってほしい。メディアが権力を監視するのではなく、逆にメディアの仲間を排除するのは、なぜなのか。情報へのアクセス権という意味で、新たな一歩につなげたい」と語る。
裁判の原告代理人の井桁大介弁護士は「まず争点となるのは、白石さんの権利が侵害されたのかということです。さらに、記者会が屋上にのぼらせなかったことについて、何らかの違法行為があったのかどうかも争点です」と指摘する。
10月14日の判決の見通しはどうか。井桁弁護士は次のように語る。
「(裁判官が)知る権利を守るために警鐘を鳴らすべきだと、大きな視点から考えるかどうかでしょう。我々はそうあるべきだと考えています。白石さんに『報道の自由』があって、国会記者会館が多くのメディアに開かれるべきだと認められれば、意義があるでしょう」
さらに、判決が社会に与える影響について「記者会館の問題にメスを入れたり、既存メディアに苦言を呈したり、知る権利の重要性に関するメッセージが発せられることを期待しています」と述べた。
メディアが多様化する中で、マスメディアがこれまで特権的に享受してきたものは、どう扱われるべきなのか。その象徴的な存在ともいえる「国会記者会館」をめぐる司法の判断は、今後の日本のメディアの行方をうらなうものになるだろう。
(弁護士ドットコムニュース)