11日に行われた、GP2のソチ・ラウンドレース1。抜群のスタートを決めたのは、3番手スタートの伊沢拓也だった。
GP2では自身最高位からのスタート。予選後、レースの目標について尋ねると「わかんない。まずはスタートですかね」と事も無げに語っていた伊沢だが、実は密かに勝ちを狙っていた。
トップグループの多くのマシンがソフトタイヤを履いてスタートする中、伊沢はミディアムタイヤでのスタートを選択。チームメイトと戦略を違えたわけではなく、「一番速くて、勝つチャンスのある作戦」を選んだという。ただ、この作戦が功を奏すためには“セーフティカーが出ないこと”という条件があった。
レース序盤は、伊沢とチームが思い描いていた通りに展開していく。抜群のスタートで一時は首位に躍り出るも、2コーナーの飛び込みでチームメイトのストフェル・バンドーンに抜き返され、アルサー・ピック(カンポス)とジョリオン・パーマー(DAMS)のふたりにも先行を許す。しかも、後方からはミッチー・エバンス(ロシアン・タイム)の猛攻も受ける。しかし伊沢は「他と違う作戦だったので、周りと争うつもりはなかったです」と言う。「しかも、(装着タイヤが違う)前のクルマと同じようなペース走れていました。まさにそれが僕らが狙っていたことなので、そこまでは完璧だったと思います」。
しかし8周目、コース脇にストップしたステファノ・コレッティ(レーシング・エンジニアリング)のマシンを排除するため、セーフティカーが出動。ここで伊沢の目論みは潰えてしまった。
「あそこでセーフティカーが入られてしまうと、僕らとしてはお手上げというのは分かっていました」
実はこのセーフティカーのタイミングで、ピットから伊沢に「ピットイン!」の指示が出ていたのだという。
「最終コーナーの手前で『ボックス(ピットに入れ)!』と言われたんですよ。ストフェル(バンドーン)も間に合わなかったので、代わりに僕を入れようとしていたみたいです。しかし、あの時点でソフトタイヤに変えて、最後までタイヤがもつかどうかは分からなかった」
ただ、バンドーンは23周(合計28周)をソフトタイヤで走り切っている。そこから判断するに、SC出動時にソフトタイヤを履いたとしても、最後まで持ったかもしれない。ただ、これは結果論にすぎないが……。
ステイアウトを選択したARTのふたりは、ワンツー体制でリスタートに臨む。しかしレース再開直前、ターン17で伊沢車のタイヤが完全にロックし、コースオフしてしまう。伊沢はここで崩してしまったリズムをなかなか取り戻すことができず、順位をどんどん落としてしまう。
「あれは完全なミスです。思った以上にタイヤが冷えていて、飛んでいってしまった。一度リズムが狂ってしまうと、なかなかライバルのペースに合わせることも難しい」
GP2に来てはじめて、勝利を目指して戦うことができたソチ・ラウンド第1レース。そのことについては、大きな手応えを感じているようだ。
「起きてしまったことは悔しいけど、選択した作戦に悔いはありません。SCが出るまでは、本当に勝つチャンスがあったと思う。そういう手応えを感じました」
最後に伊沢は、こういうひと言を語ってくれた。
「途中までは、本当に楽しかった」
今季残りのレースはあと3つ。その中でまた再び勝利を狙う機会の訪れを期待したい。