2014年10月11日 16:31 弁護士ドットコム
東京都内の女性デザイナーAさんは、大学時代に奇妙な「事件」に遭遇したことがある。アルバイトとして勤めていた会社の男性社員(30代)が、Aさんをモデルにした「官能小説」を書いて、ネットで発表していたのだ。
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Aさんは当時、19歳の女子大生。同僚の女性社員から「このブログの小説に出てくる女性、Aさんのことじゃない?」と告げられた。小説を読んでみると、登場人物の女性の名前、容貌、服装まで自分のことに思える。舞台もアルバイト先の会社の造りにそっくりだった。しかし、一緒なのはそこまでで、中身はまったくつくりごとの「官能小説」だったのだという。
その小説を書いていたのは、同じ会社で働く30代の男性だ。もともと周りに「小説を書いている」と言っていたため、すぐわかったそうだ。Aさんはそんな小説は一刻も早く削除してほしいと思ったが、面と向かって本人に言うことができず、そのままになったという。
いくらフィクションとはいえ、周りの人が見れば「あの人だ」と分かる形で、実在する個人を小説のモデルにすることは、問題ないのだろうか。モデルにされた人は、その小説の削除を求めたり、慰謝料を請求できるのだろうか。プライバシーの問題にくわしい佃克彦弁護士に聞いた。
「Aさんを知る人がその小説を読んで、『これはAさんのことだ』とわかるのであれば、Aさんの持っている権利を侵害する可能性があります」
いったい、Aさんのどんな権利を侵害するのだろうか
「それを判断するにあたっては、小説の『内容』に踏み込む必要があります。
たとえば、その小説の中に、Aさんをモデルとした登場人物の名誉毀損やプライバシー侵害にあたるような描写がある場合です。
この描写はそのまま、Aさんに対する名誉毀損やプライバシー侵害になります」
小説の登場人物に対する描写が、生身の人間に対する名誉毀損やプライバシー侵害になるのだろうか。
「可能性はあります。本件小説の場合、Aさんを知る読者は、『この登場人物はAさんなのだ』と思いながら読んでしまうおそれがあるからです。
今回のケースでは、Aさんをモデルとする登場人物がどのように書かれているのかが明らかではありませんが、官能小説だというのですから、登場人物の私生活が赤裸々に描かれているのかもしれません。
そうだとすると、Aさんに対するプライバシー侵害にあたる可能性があるでしょう」
Aさんは、勝手にモデルにした上司に対して、なにか法的手段をとれるだろうか。
「プライバシー侵害にあたる場合、損害賠償を認めて、さらに小説の公表の差止めも可能だとした判例があります。
今回のケースの場合、Aさんはまず、執筆者であるアルバイト先の上司に対して損害賠償を請求できる可能性があります。
また、小説の内容がよほどひどい場合、ブログ小説の公表の差止め、つまりブログから小説を削除することを請求できると思われます」
佃弁護士はこのように結論付けていた。
(弁護士ドットコムニュース)
【取材協力弁護士】
佃 克彦(つくだ・かつひこ)弁護士
1964年東京生まれ 早稲田大学法学部卒業。1993年弁護士登録(東京弁護士会)
著書 「名誉毀損の法律実務〔第2版〕」、「プライバシー権・肖像権の法律実務〔第2版〕」
主な経歴 日本弁護士連合会人権擁護委員会副委員長、東京弁護士会綱紀委員会委員長、最高裁判所司法研修所教官
事務所名:恵古・佃法律事務所