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F1ロシアGP現地直送:ビアンキの事故についてFIAが会見

2014年10月11日 14:20  AUTOSPORT web

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メディアからの質問に真摯に応えるチャーリー・ホワイティングと、ジャン・トッドFIA会長
ロシアGPの金曜日、フリー走行を終えた後のソチ・オートドロームのパドックは、ちょっとした緊張感に包まれていた。それは、午後6時からFIAが緊急会見を開くことになっていたからだ。もちろん、テーマは日本GPでのジュール・ビアンキの事故に関してである。

 この緊急会見がソチで取材していたメディアの注目をいかに集めていたかは、メディアセンターで仕事している約100名のジャーナリストが、2名を除いて、全員出席したことである(残っていた2名は午後4時から行われたFIAの定例記者会見の音声を文字に起こしたリリースを作成していた)。それ以外にも、テレビ局のスタッフも会見場には大勢、集まった。

 この会見がこれだけ注目されたのには、理由がある。ひとつはビアンキの事故後、FIAが開いた最初の会見だったこと。もうひとつは、出席予定者に名前が連なっていなかったFIA会長のジャン・トッドが出席したこと。そして、3つめが事故後、初めてFIAが事故の瞬間の映像を流すことになっていたからである。

 事故の映像はあくまで資料用にメディアだけに見せるのが目的となっていたため、テレビカメラのクルーの入場は認められなかっただけでなく、入場していたジャーナリスト、スチールカメラマンたちも映像を撮影することは許されなかった。その注意が徹底されていなかったため、モニターに向けてレンズを向けた数人のカメラマンは、FIAのスタッフに機材を一時没収されるという事態になったほどである。

 その映像は鈴鹿でエイドリアン・スーティルとビアンキがクラッシュした12番ポスト付近と、その手前の11番ポストからサーキットが設置した監視カメラが録画したものである。11番ポストからの映像は、スーティルとビアンキがコースアウトしていく直前の様子をとらえている。その映像では、ダンロップコーナーの走行ライン上にわずかに水がたまり出し、2人がそれに乗って、若干ワイドに膨らんでコースアウトしていく様子が分かる。

 また、映像は2台だけでなく、ほかのマシンが通過していく様子もとらえられており、ビアンキのマシンは他のドライバーに対して、著しくスピードが高いという印象はないが、ダブルイエロー時の原則でもある「すぐに止まることができる」ほど、低いスピードでもなかったように見えた。

 次に12番ポストからの映像である。これはコーナーを通過していくマシンを正面方向からとらえたものである。それによれば、ビアンキはまず左コーナーのダンロップでリアが滑り出し(クルマは進行方向に向かって左を向き)、次にカウンターを当てて(クルマは進行方向に向かってやや右を向きながら)コースアウトしていく様子が映っていた。スーティルがスピンしながら減速してタイヤウォールにクラッシュしたのに対して、ビアンキはほぼレーシングスピードでまっすぐコースアウトしていったことが判明した。

 FIAからは、トッド以外にレースディレクターのチャーリー・ホワイティング、チーフメディカルオフィサーのジャン-シャルル・ピエット、メディカルレスキューコーディネーター(ドクター)のイアン・ロバーツも出席。約100名の記者から1時間15分間に渡って質問を受け、真摯に答えていた。

 この質疑応答でいくつかはっきりしたことがある。その中で、もっとも明確にFIAが回答していたのが、グリーンフラッグが12番ポストで振られていたことに対してであった。

 ホワイティングの説明によれば、「スーティルがクラッシュした場所が12番ポストの先だったため、その時点では12番ポストのマーシャルは(ダブル)イエローフラッグを振り、その後マシンを回収させるために11番ポストでダブルイエローが振られたので、回収車をコース内へ進行させてスーティルのマシンをピックアップ。吊り上げながら、バックでコース外へ運び出そうとして、12番ポストの手前にスーティルのマシンが下がった時点で、12番ポストは規定通り(ダブル)イエローからグリーンに旗を変えただけた」と、鈴鹿のマーシャルが正しい作業を行っていたことを再度、強調した。「グリーンフラッグというのは、見えた時点で加速していいのではなく、その地点を通り過ぎるまではその手前の旗に従うのが大原則。あのときはダブルイエローが振られていたから、12番ポストまではダブルイエロー状態で、正しい手順だった」(ホワイティング)

 したがって、鈴鹿で起きた事故は、ルールに欠陥があったからというよりは、いくつかの不運が偶発的に重なって起きた結果で、即座にレギュレーションを変更するつもりはなく、「もちろんロシアGPはこれまでと同じ手順で安全管理を行う」とした一方で、「より安全性を高めるために今後、それらの手順を見直して、変更することもあり得る」(ホワイティング)ことを示唆した。

 会見は最後に、トッドが「ビアンキ家とは、私がジュールのおじいさんとラリーをしていたときからの付き合いで、今は私の息子が彼の孫のマネージャーをしており、非常に心が痛むと同時に、二度とこのような事故を繰り返してはならない」と語って、閉会した。
(尾張正博)