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ノーベル賞・中村氏の「怒り」は正当なもの? 日本はそんなにクソなのか

2014年10月11日 10:40  キャリコネニュース

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青色発光ダイオードの実用化に成功した中村修二氏が、日本人科学者2名とともにノーベル物理学賞を受賞した。米カリフォルニアで取材を受けた中村氏は、「ここまで自分を突き動かしてきたのは怒りだ」と答えている。

このコメントを受け、ネットには「日本のシステムが天才のやる気を失わせた」「日本はクソ」と中村氏に同情する声もあがっている。しかし人事コンサルタントの深大寺翔氏は、「周囲の人たちは、本当にそんなに悪かったのだろうか」と疑問を呈している。

長谷川氏「日本は天才たちのやる気を失わせる」

ノーベル賞に日本中が沸く中、フジテレビ出身のフリーアナウンサー長谷川豊が、自らのブログで「違和感」を表明しました。日本のメディアは「日本人の受賞」と騒ぎ立てているが、中村氏は日本に呆れ、日本を捨てたのだから、日本人には反省すべき点もあるんじゃないか、と問題を提起したのです。

「なんで、彼らが日本を捨てたんだ?/日本のシステムが…/日本の教育環境が…/日本的な会社の仕組みが…/天才の力を失わせ、天才の芽を摘み、天才たちのやる気を失わせる仕組みだから…/彼らは日本から出ていったんじゃないのだろうか?」

長谷川氏は中村氏の「怒り」に同情を寄せ、怒りの対象となった日本人のひとりとして、怒りを受け止めるべきというスタンスにあると言っていいでしょう。

これに対して、経済評論家の池田信夫氏はブログで、中村氏のイノベーションの素晴らしさは認めながらも、彼の怒りに対してやや冷ややかなスタンスをとっています。

もし東京地裁が命じたとおり、日亜化学工業が得た利益の50%にあたる600億円を中村氏に支払ったとしたら、「日本の企業は、青色レーザーのようなハイリスクの技術には絶対に投資しなくなるだろう」と指摘し、中村氏の要求に疑問を投げかけています。

「イノベーションとは賭けである。事後的には、価値を生み出した人が半分取るのがフェアにみえるが、それは9999人の失敗した人の犠牲の上に生まれた偶然だ。企業の研究者の大部分は、会社の金で自分の成果を出すフリーライダーなのだ」

元社員は「若いエンジニアの協力」を指摘

「フリーライダー」と言わないまでも、今回の受賞で一躍ヒーローとなった中村氏の成功は、決して彼ひとりの手柄ではないと主張する声は、受賞後もちらほら漏れ始めています。かつて裁判で中村氏と争った古巣の日亜化学工業は、各紙に、

「日本人が受賞したことは大変喜ばしいことです。とりわけ受賞理由が、中村氏を含む多くの日亜化学社員と企業努力によって実現した青色LEDであることは、誇らしいことです」

というコメントを出しました。「多くの日亜化学社員」の協力があってこそということで、やや皮肉っぽくも読めることもあって、ネットで「会社みっともない」「器が小さいな」といった批判も出ています。

しかし日亜化学工業の元社員の濱口達史氏は、ブログで「中村さん=正義、日亜=悪というレッテル貼りは行き過ぎ」と反論しています。日亜の社員にとって、中村さんはエンジニアとしての生き様は尊敬されているものの、中村氏の「すべて自分でやった」という趣旨の主張には、多くの人が反論するといいます。

ブログによれば、青色LEDを実現する無数の致命的な課題を解決したのは、中村氏の周囲にいた若いエンジニアたちだそうです。中村氏は、彼らが「こんなアイディアを試してみたい」というと、決まって「そんなもん無理に決まっとる、アホか!」とケチョンケチョンに言い返したとも書かれています。

「それでも実際にやってみると著しい効果があった。そういう結果を中村さんがデータだけ取って逐一論文にし、特許にし、すべて自分の成果にしてしまったんだ、と」

濱口氏のブログを踏まえて会社のコメントを読むと、中村氏の偉業を称えつつ、名もない協力者としての自社のエンジニアたちに対する温かいねぎらいの気持ちも感じられるのではないでしょうか。

中村氏の「集中力を高めるダシ」にされただけでは

実は日亜化学工業は、中村氏に対しもっと強い反論をしていました。前述の長谷川氏は、会社は中村氏の功績に対して2万円の特別ボーナスしか出していないように書いています。

しかし「日経ものづくり」2004年4月号に掲載された小川英治社長のインタビュー記事によると、会社は中村氏に対し「1989年から11年間の合計で、同世代の一般社員よりも6195万円ほど上乗せして支給」していたそうです。

ほかにも、開発中止など命じていないのに法廷でウソを証言されるなど、気がついたら「悪者」にされたと悔しそうに反論しています。

以上のような経緯を踏まえると、ときに行き違いはあったものの、中村氏の偉業は、日亜化学工業という環境や優れたスタッフ、理解ある経営者たちがいたからこそ実現した開発であったというのが事実で、そこから「日本はクソ」「天才に捨てられる日本」という飛躍した結論を出すのは、実態を踏まえない通俗的で自虐的な見方に思えてなりません。

他人からの評価を気にする臆病な人たちは往々にして、怒っている人がいると、そちらの方に釘付けになって話を受け入れてしまいます。しかし状況を客観的に見ると、怒っている人だけが正しいとは言えないこともあると考えるべきです。

中村氏の怒りは、周囲に対する憤りではなく、自分のテンションを高めるために、わざと敵を作っているだけ、と思える話も耳にします。各種報道によると、中村氏は大学時、友人たちにわざわざ「絶交状」を出して物理学の勉強に没頭したのだとか。日亜で青色発光ダイオードの研究に入るときは、上司からの電話も無視したそうです。

中村氏をたびたび取材したアゴラ編集部の石田雅彦氏も、「日本で裁判を起こしたのは、自ら孤独な状況に身をおき、集中力を高めるための手段だったのでは」という見方を披露していました。中村氏の怒りの対象になった人たちも、集中力を高めるためのダシにされただけかもしれず、事実を踏まえない周囲が悪者扱いしてむやみに叩くのはやめるべきです。

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