2014年10月09日 18:31 弁護士ドットコム
理化学研究所の研究ユニットリーダー・小保方晴子さんの博士論文をめぐり、早稲田大学は10月7日、「猶予付き」で「博士学位を取り消す」という複雑な決定を下した。
【関連記事:ノーベル物理学賞・中村修二教授は「日本人」か「アメリカ人」か――ネットで大騒動に】
早大は、小保方さんが「不正の方法」で学位を授与されたと認定。その一方で、審査の過程にも欠陥があったとして、これから約1年の間に小保方さんが再教育を受け、博士論文を適切な形にした場合には、「学位を取り消さない」と決めたのだ。
ネット上では「甘い」と早大を批判する声もあれば、「厳しい」と小保方さんに同情する声もあった。「この処分が甘いのか厳しいのかわからん」という指摘もある。早大理工学部出身の三平聡史弁護士の目に、今回の処分はどう映ったのだろうか。意見を聞いた。
「『明らかにおかしい』という判断は避けた一方で、『明確・最終的判断を後回しにした安直な結論』とも言えるでしょう」
三平弁護士は、今回の処分について、このように評した。どういう意味だろうか。
「今回の決定に先立って、調査委員会が7月、小保方さんが間違って博士論文の草稿を出したと認定し、『不正の方法で学位を授与されたわけではない』ので『学位取り消しに該当しない』という結論を出しました。
しかし、この調査委員会は、早大が『意見を参考にするため』に作ったもので、早大自身の判断ではありません。
結局、早大自身は今回、小保方さんの行為は『不正の方法』にあたり、『学位取り消しに該当する』と、判断しました。これは調査委員会の判断に比べれば、当たり障りのない判断、つまり妥当なものと言えます」
三平弁護士は「判断を後回しにした安直な結論」とも言っているが、それはどういうことだろうか?
「博士学位を取り消すという結論に、『猶予』が付くのはイレギュラーです。普通ではありません。
小保方さんは、自分が持っているはずの学位が、今後のアクションによって、『なかったことになる』かもしれないという大変不安定な状態です。
これは、量子力学で提唱されている不可思議な『シュレーディンガーの猫』というテーマと似ています。複数の状態が『重なり合って存在する』という問題点です。
今の小保方さんの状態は、箱を開けてみるまで、中の猫が生きているか、死んでいるかがわからないという、『シュレーディンガーの猫』のような状態ではないでしょうか」
たしかに、小保方さんが今後とるアクションを、大学がどう評価するかは未知数だ。
「博士号を持っているかどうかは、研究者として、非常に重要な要素といえます。
もし博士号がなければ、理研は小保方さんを研究ユニットリーダーとして採用しなかったでしょう。さらに、博士号の有無は、小保方さんが理研と結んでいるとされる『5年間の有期雇用契約』にも影響します。
卒業したはずの大学を『まだ卒業していなかった』という夢をみた経験のある人がいるかもしれませんが、小保方さんは結果が確定するまで、そうした状況にあるということになります」
三平弁護士はほかにも、違和感を口にしていた。
「たとえば、学位論文は本来、締切が非常に厳格なものです。『間違ったバージョンを提出したから、差し替え版を後日出す』ことを認めた早稲田の判断は、実情からずれている感があります。
また、早大では、博士論文で不適切な引用をして、学位が取り消されたケースが2013年にも起きています。小保方さんとは事情が違う点もありますが、共通点も多いです。公平性の観点から、なぜ判断が分かれたのかを明確にすべきでしょう」
今回、早大が出した結論は、三平弁護士にとっても、スッキリと受け止められる内容ではなかったようだ。はたして信頼を回復できるのか、早大にとっての正念場は、まだ続いているといえそうだ。
(弁護士ドットコムニュース)
【取材協力弁護士】
三平 聡史(みひら・さとし)弁護士
早稲田大学理工学部出身の理系弁護士。
”サイエンス、事業、労働、恋愛は適正な競争による自由市場により発展、最適化される”との信念で、この分野に力を入れる。STAP論文関連に関連する法律情報をHPでまとめている。twitterアカウントは@satoshimihira。
事務所名:弁護士法人みずほ中央法律事務所
事務所URL:http://www.mc-law.jp/