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お蔵入りキャラ「かつ江さん」 原作者がOKしても「漫画」で使えないのはなぜ?

2014年10月04日 17:21  弁護士ドットコム

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わずか3日で「お蔵入り」となった鳥取城籠城戦のマスコットキャラクター「かつ江さん」。漫画家の黒鉄ヒロシさんが「非常にクリエイティブなキャラで面白い」と評価して、著作権をもつ鳥取市に断りなく、自身の漫画に登場させた。その強烈な個性はいったんゆるキャラの表舞台から去ったかに見えたが、再び脚光を浴びた。


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「かつ江さん」は、1581年の羽柴秀吉による鳥取城の兵糧攻めをテーマにしたキャラクター。飢えで苦しそうな表情の女性がカエルを持っている姿が、イラストで描かれた。報道によると、鳥取市教委の公募で選ばれ、7月上旬に公開された。ただ、そのキャラクターの姿が独り歩きして否定的な声が集まり、鳥取市教委が使用を中止した。今後、使う予定はないという。



今回、漫画を掲載した「ビックコミック」の編集部は、原作者の了解を得たが、著作権を持つ鳥取市の了解は得ないままだったという。著作権を持つ人が「お蔵入り」としたキャラは、たとえ原作者がOKといっても、漫画に描けないものなのだろうか。著作権にくわしい南部朋子弁護士に聞いた。



●「著作権譲渡」が応募条件だった


「かつ江さんの原画は、著作権法で守られる『著作物』にあたります。かつ江さんを描いた原作者は、著作権法では『著作者』とされます。著作者には(1)著作権と(2)著作者人格権という、ふたつの権利が認められています。



ただ、今回は、鳥取市がキャラクターを募集するにあたり、最優秀及び優秀作品について、『入賞者は、作品の受賞と同時に鳥取市に対して当該作品・・・の著作権(著作権法第27条、28条を含む一切の権利)を譲渡する』という条件をつけています。



その条件のもとに原作者が応募し、かつ江さんが優秀賞に選ばれたわけですから、原作者は著作権を鳥取市に譲渡していると考えられます」



話をまとめると、原作者は「著作権」を持っていたが、その権利を鳥取市に譲渡したということのようだ。そうなると・・・?



「かつ江さんを漫画に登場させることは、かつ江さんの原画を複製することと同じです。譲渡された著作権には、かつ江さんの原画を複製する『複製権』が含まれているので、漫画での使用には、鳥取市の許諾が必要になります」



ということは、原作者の許可だけでは、かつ江さんの絵を使った漫画は書けないということだ。



●「著作者人格権」とは?


ところで、(2)の「著作者人格権」というのは、何なのだろう。



「著作者人格権は、譲渡することができない権利で、ずっと原作者のもとに残ります。



この権利の中には、たとえば著作者の意に反して、著作物を変更されない権利(同一性保持権)などが含まれます」



その著作者人格権で、「鳥取市が使わないなら、ほかの人が漫画に描いてもOK」とは言えないのだろうか。



「残念ながら、そういう権利は著作者人格権には含まれません」



南部弁護士はこのように話していた。



結局のところ、鳥取市が方針を変えない限り、「かつ江さん」が活躍する機会はもうなさそうだ。賛否両論あれども、かつ江さんは戦争に巻き込まれた庶民の苦しみを、全国に伝えるきっかけになった。どこかに活躍する場があっても、よさそうなものだが・・・。


(弁護士ドットコムニュース)



【取材協力弁護士】
南部 朋子(なんぶ・ともこ)弁護士
著作権法、商標法など知的財産法や国際取引をめぐる法律問題を担当している。ロボットをめぐる法律問題についても研究中。主な著書に『図解入門ビジネス 最新 著作権の基本と仕組みがよ~くわかる本(第2版)(秀和システム)(共著)』。
事務所名:弁護士法人リバーシティ法律事務所
事務所URL:http://www.rclo.jp/