F1日本GP初日の夕方6時、マクラーレンのホスピタリティハウスでバトンのインタビューが行われた。これはマクラーレンが異なる3カ国のジャーナリストを集めて、毎グランプリ行っているもので、今回は筆者が日本人として招待を受けた。
そのインタビューでは、ルールが変更する中で長い間、F1ドライバーでいることの難しさと楽しさや、日本のモータースポーツや、2015年に復帰するホンダについてのことなど、さまざまな質問が行われ、バトンはすべての質問に真摯に答えた。その中でも、もっとも印象に残ったのが、アロンソに関する質問への答えだった。
「来年、アロンソがマクラーレンに移籍してきてチームメイトになっても一緒にやっていく自信はあるか?」と質問されたバトン。隣のテーブルに座っていた広報がその質問に反応したので、「その質問には答えられない」と返答するかと思ったが、バトンは「いろんなウワサが流れていて、僕にも今後マクラーレンがどのような決断を下すかは正直わからないが、フェルナンドでも問題ない」と答えたのである。
その後、バトンは「もちろん、ケビン(・マグヌッセン)でも問題ないけど」とことわりを入れた後、さらにこう続けた。
「僕はルイス(・ハミルトン)ともうまくやった経験がある。だから、ワールドチャンピオンがチームメイトになってもまったく問題ないし、僕は2002年にベネトンで当時テストドライバーだったフェルナンドと一緒に仕事した経験もある。彼は僕が説明するまでもなく、F1界でもっとも優れたドライバーのひとりだ」
それはまるでアロンソのマクラーレン入りがすでに決定しているかのように落ち着いた口ぶりだった。
じつは日本GP前日に行われたフェラーリの会見で、アロンソがこれまでとは明らかに異なるコメントを発し、鈴鹿のパドックではアロンソのフェラーリ離脱がほぼ決定したというウワサが流れていた。
あるイタリア人ジャーナリストは金曜日の夜、「いまさっき、その記事を書いてイタリアへ送信したよ」と、ニヤリと笑って、翌日の見出しを教えてくれた。その見出しは「アロンソがマクラーレンへ移籍する」というものだ。ただし、「発表する時期は、日本GP期間中ではなく、フィアットが傘下のクライスラーとの経営統合の完了を発表すると言われている10月13日以降となるだろう」と言う。
もちろん、筆者もそれに同意するので、いまこの記事を書いている。ただし、そのジャーナリストはマクラーレンに移籍してきたアロンソのチームメイトになるのはマグヌッセンだと予想しているが、私はバトンがマクラーレンに残留するのではないかと思っている。なぜなら、バトンは冒頭のインタビューでこう語っていたからだ。
「確かに日本のモータースポーツには興味はある。スーパーフォーミュラやスーパーGTは素晴らしいカテゴリーだ。ときどき、結果をチェックしているよ。4月に鈴鹿で行われたスーパーフォーミュラでは、ポールポジションを獲得したアンドレ・ロッテラーが1分36秒8のベストタイムをマークしていたよね。でも、僕は今日、ここでそれより1.4秒も速いタイムを刻んだ。もちろん、時期も違うし、マシンも異なるから単純な比較はできないけど、F1が世界最高峰のモータースポーツであることは変わりないし、僕もまだまだ成長している。それに、僕にはホンダと一緒に仕事した経験があり、恋人が日本人だから日本人のメンタリティをよく理解している。だから、来年ここで新しいチャレンジをみんなと一緒にできることを心から願っている」
果たして、マクラーレン・ホンダのドライバーは誰になるのか。何とも言えない緊張感に包まれながら、日本GPは週末を迎えようとしている。
(尾張正博)