2014年10月02日 22:11 弁護士ドットコム
政府に反発する民衆の大規模なデモが続く香港。なぜ多くの若者たちは抗議運動に参加するのか。映像作家・ライターの岸田浩和さんが取材したレポートと、現地で撮影した映像を紹介する。
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突然、空が青白く光り、雷が鳴り響いた。直後、皮膚を叩き付けるような大粒の雨が降り出した。
10月1日の午前2時半。政府への抗議行動に参加するため、香港の金融街の幹線道路を埋め尽くすほどの群衆が金鐘地区に集まっていた。突然の雨に、身動きできず雨宿りできない参加者から悲鳴が上がった。参加者に水や食料を配っていた学生ボランティアが、必死の形相で雨ガッパや折り畳み傘を配っている。
群衆の中から「加油! 加油!(がんばろう)」というかけ声が、上がり始めた。ほとんどのデモ参加者たちは雨から逃れることなく、当然のようにその場にとどまっている。しばらくすると、かけ声が「歌声」に変わりはじめた。
傘やカッパで滝のような豪雨をしのぎながら、人々は顔を上げて、ロックバンドBEYOND「海闊天空」の歌詞を口ずさんでいる。デモや集会で必ずといっていいほど歌われる定番の歌だ。
「希望を捨てるのは誰にでもできる/今はたとえ君と二人きりになる日が来たとしても/もう怖くはない」
日本語にすると、サビはそんな意味なのだそうだ。歌声はやがて大合唱へと発展していった。視界を埋めつくす人々から、湯気が立ちのぼっている。
雨の中で合唱する若者たちの動画はこちら。
https://youtube.owacon.moe/watch?v=LqWDqm0B7GU
中国政府が示した行政長官選挙の制度改革に反発し、民主的な選挙の実施を求めた抗議行動が続く香港。学生を中心とした運動は徐々に拡大し、10月1日の国慶節(中国の建国記念日)にあわせた抗議行動では、市内4カ所の幹線道路がデモ隊によって封鎖され、数万人の市民が参加する規模にふくらんだ。
雨にもかかわらず、前夜から友人と3人で抗議行動にやって来たという20代の女性は、「香港のことを、私たち香港人が決めるのは当然です。そのために、民主的な選挙が行われるように、政府に改善を求めたい」と参加の理由を話してくれた。
「今回のデモによって、政府は市民の要求に応じてくれると思いますか?」。そんな問いに対して、大学生ボランティアのモー・ペイイーさん(22)は、次のように答えてくれた。「私たちの要求に、政府が簡単に応じる可能性は低いでしょう。しかし、インターネットやSNSによる発信を通じて、世界中から注目してもらうことに成功しました。外からの目によって、香港政府が対応を変えることも十分ありえます。香港人は民主と自由を望んでいるという世界への意思表示です」
ボランティア仲間のイェン・ジーヤンさんは、「意思表示を継続させることで、政府も私たちの声を認めざるをえない状況になると考えています。将来も、民主と自由のある香港に暮らしたいので、これからもこの運動には参加したいと思います」と話してくれた。
荒天にもめげず、参加者の表情は一様に明るい。明け方には、雨も上がり、陽光が人々を照らし始めた。
(文・写真・映像/岸田浩和)
(弁護士ドットコムニュース)