2014年10月02日 14:51 弁護士ドットコム
誰も住んでいない「空き家」の数が全国に820万戸――総務省が今夏発表した調査結果によると、全住宅のうち、空き家が占める割合は13.5%に上るという。
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誰も管理していない空き家は、倒壊の危険や治安の悪化など、さまざまな問題点が指摘されている。地方自治体のなかには、一定の条件がそろった場合、所有者の代わりに建物を取り壊すことができる条例を制定しているところもある。国会でも、空き家問題に対処するための法案づくりが検討されているという。
ただ、そもそも家の管理は「所有者」がすることだ。いまの法律では、長く放置されている家の所有者に対して、近隣の住民が、建物を取り壊すよう求めることはできないのだろうか。不動産の問題にくわしい山之内桂弁護士に聞いた。
「危険な建築物は、建築基準法や各自治体の条例などで、規制されています。しかし、現在の法律では、単に『空き家』を放置するだけであれば、違法とはいえません。
民法をみても、空き家問題全般について対処するため、十分な規定があるわけではありません。
財産権を保障するという観点から、不動産の所有権に対して強力な規制をかけることは難しいと言われています」
空き家に対して、近隣の住民は何も言えないのだろうか?
「たとえば、その空き家が倒壊寸前で、隣の家に被害が及びそうであれば、打つ手があります。隣の家を持っている人は、『被害が出ないよう、所有者に命令して』と、裁判所に訴えることができます。
このように、空き家によって自分の権利が侵害されるなら、空き家の持ち主に対して、所有者としての責任(工作物所有者責任)や、不法行為責任を問うことができるでしょう。
いくら私有財産といっても、他人の財産権や人格権を侵害するような形で、それを保有することは、許されないのです」
しかし、裁判となると、それなりに時間がかかりそうだ。すぐになんとかしないと危ない、という場合に取れる手続きはないのだろうか。
「緊急事態には、『仮処分』を申し立てて、裁判所に倒壊防止や除却の工事を命じてもらうことも考えられます。
被害が顕著なら、相手に工事を命じてもらって、それが行われるのを待つというのではなくて、自分側で工事を実施する『断行』という仮処分が認められる可能性もあると思います」
空き家問題はこれで解決、というわけにはいかないのだろうか?
「こうした手続きが認められるのは、具体的な権利が侵害された場合に限られます。『治安が悪くなる』といった抽象的・一般的な理由だと、仮処分はなかなか認められないでしょう」
山之内弁護士はこのように指摘していた。
(弁護士ドットコムニュース)
【取材協力弁護士】
山之内 桂(やまのうち・かつら)弁護士
1969年生まれ 宮崎県出身 早稲田大学法学部卒、大阪弁護士会 公害対策・環境保全委員会 委員、公益通報者支援委員会 委員長、民事介入暴力および弁護士業務妨害対策委員会 委員、司法修習委員会 委員
事務所名:梅新東法律事務所
事務所URL:http://www.uhl.jp