2014年10月01日 12:11 弁護士ドットコム
STAP細胞のデータ解析をしていた理化学研究所統合生命医科学研究センター・統合ゲノミクス研究グループの遠藤高帆氏が10月1日、記者会見を開き、分析結果を報道関係者向けに発表した。
【関連記事:「御嶽山噴火」山頂に取り残された人々 「捜索・救出」の費用は個人が負担するのか?】
理研の小保方晴子ユニットリーダーらが英科学誌「Nature」に投稿した論文で、STAP細胞から作りだした多能性細胞「FI幹細胞」とされていたものについて、遠藤氏は「2種類の細胞から構成されている」と指摘。ES細胞にちかい細胞と、TS細胞にちかい細胞の、2種類の細胞が混ざったものだったことがわかったと説明した。
さらに、幼齢マウスの脾臓からとったSTAP細胞とされていたものを分析した結果、胎仔として生まれることができない遺伝子異常が見つかったとして、論文の説明は成り立たないと指摘した。
記者会見場で配布された、遠藤氏の分析の要点をまとめた資料の全文は、次の通り。
理化学研究所統合生命医科学研究センター 統合ゲノミクス研究グループ 遠藤高帆
論文の主旨
・細胞の遺伝子発現を解析する手法であるRNA-seqのデータを解析することによって細胞の性質を分析する手法を開発した。
・2014年1月にNature誌上に発表された論文のうち、Letter論文で用いられた遺伝子発現データを再解析した。
・その結果FI幹細胞と称して論文に使用された細胞が二種類の細胞から構成されていることを見出し、STAP細胞として論文に使用されたデータから染色体異常(8番染色体トリソミー)を見出した。
FI幹細胞について
・Letter論文中でSTAP細胞から作製されたとされた細胞。
・ES細胞は胎盤にならないが、FI幹細胞は胎盤を作ると主張された。
・論文のRNA‐seqデータでは129マウス(♀)とB6マウス(♂)を交配して生まれた幼齢マウスの脾臓からとったリンパ球等を初期化して得られたとしている。
・解析の結果、ES細胞に近いB6マウスの細胞とTS細胞に近い別系統のマウスの細胞であることを示す結果が得られた。(TS細胞は胎盤を作る細胞として知られる)
・細胞で発現している遺伝子を調べたところES細胞に特徴的な遺伝子とTS細胞に特徴的な遺伝子の両方を多く発現しており、中間の性質を示していたが、これは上記の2種類の細胞の混合であったためだと考えられる。
・論文中では割愛したが、細胞を緑に光らせるGFPを高発現しており、その配列から細胞初期化の指標となるOct4発現時に細胞が緑に光るOct4-GFPが入った細胞を用いていたことが推定される。また、TS細胞は一連の実験で比較対照用に使用されていたTS細胞と同じ系統のマウス(CD1)から得たものと推定される。
・遺伝子の配列および発現パターンからES細胞に近い細胞とTS細胞に近い細胞の比率は9:1程度であったと推定される。
・ただしこの混合が意図的なものであったかどうかは解析からは断定できない。またキメラ作製に使われ、論文で胎盤をつくるとされたFI幹細胞は遺伝子発現解析に使われたものと同じとは言えない。
STAP細胞について
・幼齢マウスの脾臓からとったリンパ球等を弱酸で処理して初期化したとされる細胞の塊。
・発現している遺伝子を解析した結果、8番染色体でだけ母親(129マウス)由来の遺伝子が父親(B6マウス)由来の遺伝子のおおよそ倍発現していることがわかった。
・遺伝子発現の総量が8番染色体だけ多くなっていることからも、塊を作っている細胞のほとんどで、8番染色体のほぼ全体がトリソミーになっていることが推定される。
・8番染色体トリソミーをもつマウスは胎生致死(異常が起きて胎仔が生まれることができない)であるため、この細胞が幼齢マウスから得られた細胞であるとは考えられない。
・Article論文に示されたデータより、弱酸処理は遺伝子異常を起こさず、またSTAP細胞は増殖しない。染色体異常は細胞分裂時に起きるため、論文に記述された方法ではRNA-seqのデータを取得したSTAP細胞は作成できない。
・幼齢マウスの脾臓から得た細胞ではなく、8番染色体のトリソミーを頻発するES細胞か、それに近い培養細胞だったと推測される。
・STAP細胞もFI幹細胞のケースと同様、遺伝子発現解析に用いられた細胞とキメラ作製に使われた細胞が同一ではないと考えられる。8番染色体のトリソミーをもつ細胞は生殖系列に乗らない(キメラはできてもキメラの子供には受け継がれない)ことが報告されているが、Article論文ではSTAP細胞の遺伝子がキメラの子供に受け継がれたことが写真によって示されている。
(弁護士ドットコムニュース)