2014年09月28日 12:11 弁護士ドットコム
埼玉医科大学医学部の入学試験で、ある受験生の祖父が「裏口入学させるという名目で、現金をだましとられた」として、警察に被害の相談をしているーーそんなニュースが話題を呼んでいる。
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報道によると、受験生の祖父は、前衆議院議員の元秘書らから「埼玉医大の理事長や学長と特別な関係にある知り合いを紹介する」と話を持ちかけられて、別の私立大学の元臨床教授を通じて、現金をわたしたという。しかし、受験生は2013年度入学試験に不合格。大学側が元秘書らからの口利きを否定したため、受験生の祖父は現金をだまし取られたと主張している。
一方で、元秘書は「元臨床教授を紹介しただけで、金は受け取っていない」。元臨床教授は「現金を受け取り、手数料で一部をもらったが、大部分は元秘書に渡した」と話しているといい、それぞれの言い分は対立している状況だという。
埼玉医大側は「口利きで入試結果は変わらない」としている。そもそも一般論として、学校関係者に裏金をわたし、口利きをしてもらう「裏口入学」があったとすれば、それは法的に問題ないのだろうか。小池拓也弁護士に聞いた。
小池弁護士は、その学校が「私立」か「国公立」かで話が違うと前置きしたうえで、次のように話す。
「まず、今回の疑惑と同じ、私立学校のケースを考えてみましょう。
私立学校では、実は『裏口入学』を依頼した人も、これに応じた大学関係者も犯罪に問われません。なぜなら、どの刑罰法規に触れていないからです。
裏口入学は、社会的に非難を受ける行為かもしれませんが、それだけで犯罪とすることはできないのです」
それでは、国公立学校の場合はどうなるのだろうか?
「一方で、国公立学校の場合は、裏口入学を依頼した人が『贈賄』の罪に、これに応じた学校関係者は『収賄』の罪にそれぞれ問われることになると考えられます。
なお、いずれの場合でも、裏口入学させるつもりがないのに、裏口入学をさせるといって金銭をだまし取ったら、『詐欺罪』になります」
それでは、裏口入学が失敗した場合に、依頼者は渡した裏金を返してもらうことができるのだろうか?
「裏口入学は社会的非難を受ける行為ですから、渡された裏金は不法原因給付(民法第708条)ということになり、原則として返還してもらうことはできません」
この「不法原因給付」というのは、ざっくりいうと、裏口入学のようによくない目的で支払ったお金は、法的に返してもらうことはできない、ということだ。
小池弁護士は続ける。
「したがって、たとえば、『裏口入学に失敗したら、裏金は返還する』という約束が守られなかった場合に、依頼者が民事訴訟を起こしても、裁判所が返還を命じることはないでしょう。
さらに裁判例によると、『裏口入学をさせる』といって金銭をだまし取った場合も同様のようです(東京地裁昭和56年9月25日判決)。
ただし、もし詐欺罪で刑事事件になった場合は、だまし取った側が実刑判決になる可能性を低下させようとして、金銭を返してくれる場合があるかもしれません」
裏口入学のような話に乗った側にも責任がある、ということだろう。小池弁護士は結論として、「法は不法に手を貸すことはない、ということです」とまとめていた。
(弁護士ドットコムニュース)
【取材協力弁護士】
小池 拓也(こいけ・たくや)弁護士
民事家事刑事一般を扱うが、他の弁護士との比較では労働事件、交通事故が多い。横浜弁護士会子どもの権利委員会学校問題部会に所属し、いじめ等で学校との交渉も行う。
事務所名:湘南合同法律事務所
事務所URL:http://shonan-godo.net/index.html