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感情的な「世間という法廷」にどう対応?広報コンサルCEOが語る「危機管理の公式」

2014年09月28日 11:11  弁護士ドットコム

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ベネッセの情報漏えい、朝日新聞の誤報、すき家の過酷な労働環境――。企業にとって深刻な危機が発生した場合、経営トップは社会に向けて、どんなメッセージを発信すべきだろうか。特に最近は、中国で起きたマクドナルドの「期限切れ肉」問題に代表されるように、海外で起きたトラブルが日本に波及するケースも増えてきた。世界各地で広報戦略のコンサルティングを展開しているフライシュマン・ヒラード(本社:米国セントルイス)のデイブ・セネイ社長兼最高経営責任者にグローバルな視野での危機管理を聞いた。


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●危機レベル = 問題の重要性 × あいまいさ


――危機をどのような枠組みでとらえればいいか?



「危機のレベルは、問題の『重要性』(Importance)と情報の『あいまいさ』(Ambiguity)のかけ算で考えることができます。『重要性』と『あいまいさ』の変動によって、かけ算の値も変わってきます。さらに『あいまいさ』は、『恐怖』(Fear)『不確実性』(Uncertainty)『疑問』(Doubt)の3つの要素に分けられます。それぞれが高まれば、『あいまいさ』が増すことになります」



――具体的にどう考えれば良いか?



「食品会社の例で考えてみましょう。0から10までのポイントで考えると、食品の安全性は、非常に大切なものですので、『重要性』は10ポイントになります。そして、危機が発生して事態を把握できないとしましょう。この場合は、『あいまいさ』は10ポイントになり、10×10で、危機のレベルは100と考えることができます。では、どうすればレベルを下げることができるのでしょうか。食品の安全性は非常に重要度が高いものですので『重要性』のポイントは下がりません。しかし、『あいまいさ』は下げることができます。我々の仕事の大部分が『あいまいさ』を下げる部分に集中しています」



――どうやって「あいまいさ」を下げればいいのか?



「とにかく早く対応しないといけません。『あいまいさ』をゼロにできなくても、5にするだけでも、危機のレベルを50に減らすことができます。危機が起きても、すぐに情報が入ってこないこともあるでしょう。しかし、そういった場合でも、消費者に『心配している』『懸念している』といったメッセージを出すことはできます。危機管理は論理的なアプローチではなく、感情的な要素が大切です。人々は危機が起きた場合、恐怖や怒りを感じます。そういった感情をおさめないと、危機を乗り越えることはできません」



●ネットにより「ブランド」と「評判」が一体化


――インターネットの普及で危機への対応も変わったのではないか?



「今は瞬時に会話が成立して、すぐに情報が広がる時代です。ニュースのサイクルも短くなっています。常に世間の会話をモニタリングする必要があります。場合によっては、企業が問題を把握するよりも早く、一般の人が情報を手に入れることもあります。スピードが危機管理の大きな問題になります」



――危機への対応は消費者にどう評価されるのか?



「昔は『ブランド』と『レピュテーション』(評判)は別のものと考えられ、対応する部署も『ブランド』はマーケティング、『レピュテーション』は企業コミュニケーション(広報)と別々でした。しかし、ネットの登場で両者を分けることができなくなりました。『ブランド』とは、消費者に対する約束のことです。その約束が期待はずれということになると、消費者はネットでそのことをシェアするようになります。それは『レピュテーション』に影響します」



――さまざまな危機管理を見ていて、何を教訓とすべきか?



「自動車でも衣料品でも食品でも、製品を一社だけで作っているわけではありません。何百ものサプライヤーが関わって、非常に複雑な構造で仕事を進めています。しかし、一般の消費者はサプライヤーではなく、ブランドで認識します。そのブランドを持っている会社がすべての責任を負うように考えるのです。世界各国のサプライヤーを活用する時代では、この点が非常に重要です」



――サプライヤーを訴えるだけでは、問題が解決しないのか?



「責任転嫁をしようとする企業は、『法的な責任』のことを考えますが、『世間』のことをあまり考えていません。しかし、裁判所ではなく、『世間という法廷』も存在しているのです。たとえ裁判所で解決したとしても、世間に理解されないこともあります。サプライヤーのせいにして被害者のように振る舞うと、世間からは非難を浴びるでしょう。世間という法廷は感情的になります。責任転嫁をすると、当事者意識がないと判断されてしまいます」



――どうすれば世間に理解してもらえるのか?



「いかに問題を解決するか、二度と起こさないための防止策をどうするのかについて、世間に発信する必要があります。正直に話せば、世間は許してくれます。むしろ、危機があったときに、きちんと対応することができれば、消費者のロイヤリティが増すことも考えられます。我々は危機のシナリオを描く仕事をしています。どういう危機が起きるのかは、9割予測できます。予測できる危機については、企業の計画にリスクとして盛り込み、準備をする必要があります」



●経営トップの「辞任論」はどの国でも出る


――日本企業が海外で活躍するために、何が求められるのか?



「海外で政治的、経済的なコネクションを作らなければいけません。それは、農地を耕して、土壌を作ることに似ています。日本企業はその土壌を作ることには長けているように見えます。今後はさらに、グローバル広報を強化する必要があるでしょう。弊社の日本法人にも、広報部というより、経営企画部や社長室といった、戦略そのものに関わる部署からよく問い合わせがきます」



――日本では、不祥事が起きるとトップの辞任論が噴出することが多いが、日本特有の現象なのか?



「責任をとって辞任しろというのは、日本だけではなく、どこでも起きることです。これまで以上に説明責任が求められる時代になっています。『責任を取って辞めろ』という声が出ることは、それほど驚くべきことではありません。世間はますます自分たちの気持ちを表すようになっています」



――世間の怒りを買わないためには、何が求められるのか?



「危機が起きる前の対応が大切です。良い企業であると信じてもらわないといけません。危機が起きてからでは遅いのです。危機には3つのステージがあります。『起きる前』『起きた時』『起きた後』です。危機の前から信頼性を高め、危機が起きた場合は誠実に対応して、影響を最小限に抑えることが大切です。さらに、危機の後に、社内の活力を高めることにつなげられるかどうかが重要になります」


(弁護士ドットコムニュース)